冠水して孤立した順天堂病院(奥)の近隣住民が、自衛隊のボートで救出された=29日午後0時14分、杵島郡大町町

 佐賀県内を襲った豪雨から一夜明けた29日も、冠水が続く杵島郡大町町。道路は濁水で覆われ、順天堂病院は孤立状態が続いた。近くの鉄工所から大規模な油流出も重なり、黒々とした泥水が病院に押し寄せた。29日は消防や自衛隊がボートを出し、看護師らは病院へ。入院患者や入所者179人の命を守る懸命の努力が重ねられた。

 「1階の入所者約30人を2階に避難させた。ベッドごと運んだ人もいる」。病院関係者は、緊迫した状況を振り返る。病院には呼吸器を着けた重度の患者、福祉施設は足が不自由で車いすの高齢者などが入所している。1階は浸水し、水位は高さ40センチに上った。

 29日は病院から約600メートル離れた大町橋にボートの拠点が置かれた。入院患者と入所者はボートでの避難は困難なため、早朝から職員が食料を積んで乗り込んだ。医療介護スタッフが交代しながら対応している。

 水を掻き出す作業にあたった介護職員が橋に戻り、取材に応じた。施設内は電気が使えるが、トイレの水は一時流れなかった。厨房が浸水し、食事はおかゆやミカンの缶詰だった。「水が引かずにこのままの状態がいつまで続くか不安」と声を落とした。

 別の40代男性職員によると、夕方までには1階から水が引いたという。それでも通常の定員を超す人数が2階に入った状況で「入所者の環境が変わっていて、ストレスがあるかもしれない」と体調を案じた。

 冠水は病院周辺の地域に及び、民家に取り残された住民から救助要請が相次いだ。「命が助かってよかった」。母親(41)は8歳の男の子と2階に身を寄せ一夜を過ごした。油は鼻をつく異臭を漂わせ、水位は徐々に上がってくる。「別世界のようだった」と恐怖を語った。男児はトイレに行けずにがまんしたといい「夜は眠るのが怖かった」と言葉をつないだ。

 自衛隊員に抱え上げられるように救助されたのは福田廣子さん(84)。着の身着のままでボートに乗り、陸地にたどり着いた。腰の高さまで水が迫り「助けてもらった。本当にありがたい」と手を合わせ涙した。

 周辺では海上自衛隊による油の回収作業が進む。病院付近には大量の油が残っており、30日は重点的に回収を実施する方針。国交省武雄河川事務所は排水ポンプ車を夜間も稼働させ、30日夕方をめどに順天堂病院に通ずる県道の復旧を目指すとしている。

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