厚生労働省が、公的年金の「健康診断」に当たる財政検証を公表した。標準ケースの年金水準は約30年で2割ほど目減りするとの結果だ。世界でも少子高齢化の先頭を走る日本では、厳しいがやむを得ない流れだろう。

 金融庁の審議会が示した「老後必要な資金2千万円」が議論を呼んだが、目減りする年金に加え自助努力という「2本柱」での老後生活設計が避けて通れないのが実態だ。

 自営業者らが加入する国民年金は給付が少なく、これのみに頼る高齢者など自助努力に限界がある弱者の保護は当然必要である。今回の検証を、現実を見つめる機会としたい。

 日本の公的年金は、現役世代が納める保険料を今の高齢者の年金給付に回す「仕送り方式」だ。このため支える側と支えられる側の人口比率や経済状況を受けた賃金水準の変化が、年金の財政、給付に大きく影響する。

 これを前提に5年に1度行われるのが財政検証だ。将来の若者と高齢者の人口比率がどう変わるか、女性や高齢者の労働参加の進み具合、経済成長の見通しなどを踏まえ、約100年間の公的年金の財政状況や給付水準がどうなるかを試算する。

 その際に指標となる「所得代替率」は、現役世代の平均手取り収入に対する年金受給額の割合だ。今回の財政検証の結果は、モデル世帯の現在の所得代替率61・7%が標準的ケースで2047年度に50・8%に下がるが、それ以降は固定されるという内容だ。前回14年検証は、当時の62・7%が43年度に50・6%になるとの結果だった。100年の見通しの中ではあまり変化はないが、わずかに改善したとも言える。

 出生率推計が少し上向くことや、年金積立金の運用利回りが予想より良かったことも寄与したようだ。だが厚労省が重視するのは別の点だ。一つは「マクロ経済スライド」を2度実施して足元の年金給付を抑制した効果。これは少子高齢化が進んでも年金財政を維持できるよう、物価と賃金が上昇した場合に給付の伸びを抑える仕組みだ。

 もう一つは、パート労働者の厚生年金加入拡大、女性や高齢者の労働参加促進で年金保険料を納めてくれる人が予想より200万人以上増えたこと。つまり前回の健康診断後の「治療」で効果が出てきたというわけだ。

 厚労省は今回、通常の財政検証に加え、条件を緩め厚生年金加入者をさらに増やした場合、保険料納付期間の延長や希望に応じた受給開始年齢引き上げをした場合などについて「オプション試算」も公表。いずれも「年金水準確保に効果が大きい」との見解を示した。

 多くの女性や高齢者にフルタイム、パートを問わず働いて保険料を納めてもらい、元気なうちは年金受給を待ってほしい―というのが厚労省が意図する改革の狙いだ。さらには公的年金の目減りを補うため個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」など私的年金の普及にも努めている。

 麻生太郎金融担当相は「老後資金2千万円」の報告書を「政府のスタンスと異なる」と受け取りを拒否した。だが、いかに火消しを図ろうと、政府が公的年金の目減りを前提に、自助努力を促す政策を今後も進めていくのは間違いないだろう。年金制度を未来に引き継ぐには老いも若きも相応の痛みを分かち合う必要性を再認識したい。(共同通信・古口健二)

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