日米両政府が大枠合意した貿易交渉は、牛肉や乳製品など対日輸出農産品関税の削減など米国への譲歩ばかりが目立つ内容になった。その上、安倍晋三首相は、大統領選に向け成果が欲しいトランプ大統領の要請を受け入れ、米中貿易摩擦で中国向け輸出が伸び悩む米国産トウモロコシの購入まで引き受けた。

 安倍首相は両国にプラスになると強調したが、日本の対米輸出拡大に向けた具体的な成果は乏しく圧力を背景にした2国間交渉で米国に押し込まれたと言わざるを得ない。

 さらに、日本が懸念している自動車の対米輸出数量規制や、自動車への追加関税などについて米国の対応方針がはっきりせず、火種が残っている状態だ。日米は9月末の首脳会談で貿易協定に署名する方向だが、その前に、こうした項目について、しっかり米側から「適用しない」との約束を取り付けなければならない。

 ここをなおざりにすれば、確約がないことをいいことに、トランプ大統領が再び、持ち出してくる恐れも排除できないからだ。現状でも、合意内容は米国に有利な形になっている。それに加えて、日本車の米国市場へのアクセスがさらに悪化するような事態は避けなければならない。

 米国の対日輸出で関税が削減される米国農産品は牛肉、乳製品に加え、豚肉、小麦、ワインも対象になった。環太平洋連携協定(TPP)の取り決めが削減の上限になる見込みだが、政府は具体的な数値などは明らかにしていない。日本の対米輸出では、攻めの分野と位置づけた工業製品の多くの分野で関税が撤廃、削減されるとしているが、具体的な品目などの公表は9月末に持ち越される。

 茂木敏充経済再生担当相は、日米双方にとって利益になると強調している。実務交渉の責任者の説明だが、これでは国民は判断できないだろう。最終的な合意まで公表できない事項があることは理解できるが、可能な範囲での情報公開を求めたい。

 9月に署名にこぎ着ければ、昨年秋に始まった日米交渉は約1年間で終了することになる。異例の早期決着の背景には、トランプ大統領が大統領選前に成果を上げたい米国の思惑、交渉が長引くことによって交渉範囲が拡大することを避けたい日本の事情があった。

 その早期決着を最終局面で後押ししたのは、日本の譲歩だった。日本は対米輸出拡大のために米国が日本車に課している2・5%の関税の撤廃を目指してきたが交渉は難航、日本は早期妥結を優先し要求を取り下げた。

 しかし、2・5%の関税撤廃はTPP交渉で米国から勝ち取った成果の代表格だった。米国が今回の交渉で、農産物についてTPPと並ぶ関税削減を得たのなら、日本も、米国のTPP離脱で見送られた、この2・5%撤廃を復活させてこそ、日米で見合いが取れるはずだった。自動車関税を撤廃する好機を生かせなかったのは残念だ。

 トウモロコシについても唐突感が否めない。民間企業が9月以降、年間輸入量の3カ月分に相当する250万トンの飼料用を輸入し、備蓄を積み増すという。だが、民間企業の手を煩わしてまで、早急に備蓄を増やす必要があるのか、疑問を抱かざるを得ない。(共同通信・高山一郎)

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