葛飾北斎の辞世の句〈飛登魂(ひとだま)で行く気散(きさん)じや夏野原〉。18日付のこの欄で紹介したところ、「〈気散じ〉にはどんな意味がありますか」と問い合わせがあった。中学校で国語を教えていた嬉野市塩田町五町田の大島英樹さん(78)からだ◆〈気散じ〉は広辞苑に「心の憂さをまぎらすこと、きばらし」とある。辞世の句は「人魂になって夏の原っぱにでも気晴らしに出掛けようか」といった意味。そのことは紹介していたが、大島さんは子どものころに聞いた言葉からは想像できない意味が句にあったので尋ねてみたそうだ◆70年ほど前。大島さんの住む地域では〈きさんなもんね〉とお年寄りが子どもに向かって言葉をかけていたという。「素晴らしい」「感心だ」といった意味であった。確かに句とは全く意味が違っている◆そこで志津田藤四郎さんの著書『佐賀の方言』をめくってみた。すると〈キサンナ〉という言葉を見つけた。「スバラシイ」「ビックリスルヨウナ」という意味で、江戸語の〈気散ジ〉から来ており、江戸文献に多く見える、とある。大島さんの指摘とぴったり一致した◆佐賀の方言をたどると、なんと江戸語に行き着いた。言葉の変遷は興味深いものだ。だが、〈きさんな〉という言葉は大島さんの地元でも使う人がほとんどいなくなったという。残念なことである。(丸)

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