ここ2カ月間、出勤できていない職員さんが3人の上司とともに産業医に紹介されました。まず、本人と個人面談を行った結果、明らかなうつ病でした。次に、上司に本人の診断名を伝えると、これまで、2人分の仕事をこなし、疲れ切った上司は突然大粒の涙を浮かべ、一旦その場から離れました。産業医はその職員さんの治療を担当できないため、早急に外部のメンタルクリニックに予約と紹介状を作成しました。すでに外部の医療機関に受診されている場合もあります。

 もし、この方が自殺に追い込まれて、亡くなったとしましょう。会社の上層部から、産業医は何をしていたのかと責められます。会社が賃金を支払って、職員の健康管理をお願いしているから当然でしょう。産業医は、このような状況に追い込まれると、眠れず、訳もなく涙がこぼれ、どうしてもっと早く発見できなかったのか、自責の念にかられるのも当然です。原因不明のうつ病と闘っているのだから、仕方がないと自分に言い聞かせますが、時間外労働がどの程度だったか、職場の人間関係など、なぜ2カ月間も放置していたのか、など職場側は原因を徹底的に調査します。これまで、健診を受けていたかなど、職員さんの家族の問題、今後の生活の保障、労災の認定が可能かどうか。私たち産業医は、追い詰められることも多々あります。

 現在、「働き方改革」が国会で議論されています。日本人はこれまで過重労働を見過ごしてきたように思います。働くことだけに価値を置きすぎて、自分の健康や家族の幸せに目をつぶってきました。年休を全部消費しないのは、日本人だけだともいわれたことがあります。私は仕事だけに価値を置かず、人生をもっと楽しまないと、と思う年齢に達したようです。経済大国になった日本、これからは時間の余裕がもてる社会を期待したいですね。(九州大学キャンパスライフ・健康支援センター教授・副センター長・統括産業医 佐藤武)

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