つい「佐賀の七賢人」と間違えそうになる後藤新平は、関東大震災後の首都復興などに腕を振るった政治家。旧幕府側だった陸奥伊達藩の出身で、薩長閥が幅をきかす明治新政府で頭角を現すには苦労も多かったことだろう。腹が立ってたまらない時につぶやく呪文があったという。「相手に聞こえないように、馬鹿、馬鹿、馬鹿、と3度言うのだよ」◆そんな呪文を授けたい連中が近ごろ目立つ。あおり運転のあげく傷害容疑で逮捕された男女をはじめ、ワイドショーは連日、あちこちで頻発する同種の悪質運転を伝えている。こんなにも路上は怒りで満ちていたのかと驚く。自己防衛のためドライブレコーダーが売れている、というのも道理かもしれない◆周囲が理解できない独善的な「正義」を振りかざし、他者を過剰に攻撃する。放火や刃物による無差別殺傷事件とどこか似通っている。テレビを見ながら「こんな奴(やつ)ら、厳罰にしなきゃ」と今度はこちらが怒っている。世の中が負の感情で塗り込められていくようで気分がふさぐ◆そんな時代の空気にあおられて、いらだちの沸点が下がってはいないか。専門家によると、怒りの衝動が続くのは長くて6秒という。後藤サンの呪文も案外理にかなっている。感情コントロールに試してみては◆誰だ、こっちに聞こえるように言っているのは。(桑)

このエントリーをはてなブックマークに追加