安倍晋三首相の第1次内閣からの通算在職日数が24日、大叔父にあたる佐藤栄作氏を抜き、戦後最長となった。戦前を含めても明治期の桂太郎氏に次ぐ2位で、このままいけば約3カ月後の11月20日に歴代最長首相の座を手にする。しかし、その突出する長さに見合った実績があるかというと、首をかしげざるを得ない。

 安倍首相が実績と胸を張る、集団的自衛権の行使を一部容認した憲法解釈の変更と、それを受けた安全保障関連法の成立は、その是非を巡り世論が二分し、立憲民主党など野党は関連法の廃止を訴えている。

 デフレ脱却を目指したアベノミクスの柱である日銀による大規模金融緩和も、目標である物価上昇率2%はいまだに達成されておらず、むしろ長期間続く超低金利が金融機関の収益を圧迫するなどの副作用に対する懸念が強まっている。

 「戦後日本外交の総決算」と位置付けた北方領土返還を含むロシアとの平和条約交渉、北朝鮮による日本人拉致問題を解決した上での日朝国交正常化も見通しが立っていない。

 さらには森友、加計両学園問題、自衛隊の日報隠蔽(いんぺい)、厚生労働省の統計不正、財務省の公文書改ざんという民主主義の土台を崩しかねない事態が続いた。長きが故の「弊害」である。

 いま、安倍首相が力を傾注すべきなのは、国民に約束した経済、外交面での目標達成であり、忖度(そんたく)がまん延し、信頼を失った官僚組織の立て直しであろう。

 安倍首相は「戦後レジームからの脱却」を掲げた第1次政権で、強引な国会運営や相次いだ閣僚不祥事が影響し、2007年の参院選で惨敗、体調不良も重なり、発足1年で退陣した。

 12年末の首相復帰後は、第1次時代の失敗から学び、景気回復を最重要課題に掲げた。大型選挙前には与野党対決法案の提出を控え、野党の準備が整っていない状態を狙って衆院解散を仕掛けるなどして、国政選挙で5連勝を重ねてきた。

 しかし、現在の安倍内閣が長く続いているのは、実績を国民から高く評価された結果というよりも、自民党内に有力なライバルが存在しないことや、野党が分裂しているという内外の「多弱」に支えられたものであるところが大きい。

 戦後、長期間、在職した首相はレガシー(政治的遺産)と呼ばれる歴史的な実績を残している。吉田茂氏の戦後復興、佐藤氏の沖縄返還、中曽根康弘氏の国鉄分割・民営化がその代表例だ。

 長さの割に後世語り継がれるレガシーがないことを、最も認識しているのは安倍首相自身なのかもしれない。

 このお盆の最中、父の晋太郎元外相の墓参をした際、安倍首相は「憲法の議論をいよいよ国会で本格的に進めていくべき時を迎えている」と報告した。もし、憲法改正をレガシーにしようとしているのだとすれば、自己都合の極みではないか。

 安倍首相の自民党総裁の任期は21年9月までだ。現在、3期目の安倍首相は、党規約を改正しての4選を否定しており、その言葉通りだとすれば、残された時間は2年余り。デフレ脱却、北方領土返還、日本人拉致問題解決などに加えて、憲法改正にまで取り組む余裕があるとは、とても思えない。(共同通信・柿崎明二)

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