夏かぜのシーズンです。夏かぜは、はなみず、せき、のどの痛みなどの気道感染症状と、下痢や吐き気などの消化器症状をおこすウイルスの一群が原因です。てのひら、あしのうらのぶつぶつに加えて口内炎をおこす手足口病や、のどの奥に口内炎を起こしてのどの痛みと高い熱を出すヘルパンギーナも夏かぜの仲間です。感染力が強いため幼稚園や保育園では嫌われますが、重症化することはほとんどなく1週間程度で完全に治ると考えられていました。

 ところが、数年前に北米でこのような夏かぜにかかったあと、あしが思うように動かず急に立てなくなったり、手に力が入らず自由がきかなくなる手足のまひ症状を起こす病気が流行しました。日本でも報告例が増えています。まひは突然起き、だらりと力が抜け、四肢の一部のみまひすることが多く、通常左右差があります。だらりとして力が入らないまひを“弛緩(しかん)性まひ”といいますが,その原因はいろいろです。夏かぜのウイルスによる“弛緩性まひ”は、運動に関係した神経が通る脊髄の一部(脊髄前角)がウイルスによりダメージを受けて運動機能が障害され生じます。

 診断はMRIという画像検査で脊髄に異常があることと、脊髄液中に炎症細胞が増加していることを証明することで行います。原因のウイルスは便、脊髄液、咽頭、尿、血液などから分離培養して調べます。まひに対しては有効な治療法は確立していません。ガンマグロブリンやステロイドなどを使用しますが、有効性は不確実で、回復は自然経過にまかせることになります。障害は運動だけで、ふつう知覚は障害されません。ポリオウイルスで発症する“小児まひ”と極めて似た病気です。ポリオはワクチンで根絶されましたが、それに替わるようにして他のウイルスによる急性弛緩性まひが起きています。このように、ありふれた、従来心配することのない良性の病気と思われていたものが、時に重大な症状を引き起こすことがあるので油断はできません。

 

浜崎 雄平(はまさき ゆうへい)
佐賀整肢学園 からつ医療・福祉センター顧問。佐賀大学名誉教授。
1948年、鹿児島県日置市生まれ。九州大医学部を卒業し、テキサス大やオクラホマ大研究員などを歴任。
84年から佐賀医大(現佐賀大学医学部)小児科講師として勤務し、00年に同大小児科学教授就任、09年から医学部長を兼任する。
14年から現職。専門分野は小児の呼吸器/循環器疾患,アレルギー疾患。

 

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