森からし蓮根の調理場で次々と揚げられる辛子れんこん=7月26日、熊本市中央区新町

 ふわっとした黄色の衣に、しゃきしゃきとしたレンコンの歯触り、鼻の奥にツンと抜ける辛子からしの風味―。熊本名産の「辛子れんこん」は、おせち料理や居酒屋の定番メニューだ。老舗の調理場では、伝統の味を守るために情熱を燃やす“アツい”職人がいた。

 熊本城の城下町として栄え、古い商家や民家が立ち並ぶ熊本市中央区新町。熊本市電の新町電停近くの元祖「森からし蓮根(れんこん)」では7月中旬、早朝からレンコンを揚げる作業が続いていた。調理場は空調が効いていたが、180度の油の前に立つ職人は汗だくだ。

 「サウナのような熱気。夏は作業着の下のシャツを3回は着替える」と苦笑いする工場長の森伊吹(いぶき)さん(24)。高校卒業後、家業である同社に入り、揚げ作業を担当。冬でも半袖シャツで作業に当たっている。

 レンコンは長さ15センチ前後、重さ約300グラムで、佐賀県などから仕入れる。麦みそと和辛子を合わせてレンコンの全ての穴に詰め、ウコンなどで色付けした衣をまとわせ、菜種油で揚げる。夏場は1日2、3千本を製造。年末の繁忙期は一日中フル稼働で2、3万本にもなるという。

 伊吹さんの父、久一郎(くいちろう)副社長(53)は「30年前は扇風機1台だけ。夏場は地獄の暑さだった」と懐かしむ。現在は空調に加え、職人に冷風を直接当てるなど、暑さ対策に余念がない。

 県民に愛される伝統食を継承しようと、日々大粒の汗を流す伊吹さんら職人。「うちは元祖で、日本一という自負がある。『きれいだ』『食べたい』と思ってもらえるような辛子れんこんを作り続けたい」。レンコンと向き合う真剣な表情が印象的だった。

 (文=熊本日日新聞社会部・前田晃志、写真=写真映像部・上杉勇太)

 【メモ】辛子れんこんは熊本の郷土料理。江戸時代初期の寛永9(1632)年、森さんの先祖の平五郎が、病弱だった細川家初代熊本藩主忠利に栄養食として献上したのが起源とされる。明治維新以降、庶民にも広まった。

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