野菜を蒸し窯に入れる井上さん=長崎県雲仙市小浜町

 源泉の湯温は100度を超え、日本屈指の湧出量1日約1万5千トンを誇る長崎県雲仙市小浜町の小浜温泉。湯煙が上るまちの蒸気を生かそうと今年1月、蒸し野菜を真空パックして販売する会社を立ち上げた。

 高温の蒸気で一気に蒸し上げたジャガイモやトマトは素材の味が凝縮され、栄養分のロスも少ないという。蒸し窯での作業は「自分も蒸されています」。井上あやさん(45)は笑顔で汗を拭う。

 同町出身。幼い頃から新鮮な野菜や魚を味わい、気が向いたら温泉に入る?。そんな生活が当たり前だった。大学卒業後、県外で就職。26歳からは東京で働いた。都会に並ぶ野菜の味の薄さに驚き、初めて気付いた。「何て恵まれた土地で生まれ育ったんだろう」

 母が体調を崩したのを機に仕事を辞め、7年前に帰郷。約20年ぶりの古里。幼少期、町には宿泊客のげたの音が響いていたが、「今はネコの鳴き声だけ」とこぼす。食材と温泉を生かしてにぎわいを取り戻すため、蒸し料理の研究を始めた。

 旅館の蒸し窯を借りて試作を繰り返した。「これまで千回以上は蒸したかも」と振り返る。2年前、蒸し野菜をペースト状にしたジャムを開発。さらに研究を重ね、蒸し野菜をまるごと真空パックした「温蒸素味(おんむすび)」ブランドを立ち上げた。

 野菜によって蒸す温度や時間を変え、一番おいしい状態で消費者に届ける。真空パックにすることで、冷蔵庫で2週間から1カ月は保存可能。温めるだけですぐに“小浜の味”が楽しめる。

 「おいしさを伝えることで、小浜のよさを全国に伝えたい。こんないい町、どこにもない」。蒸気に後押しされるように、郷土愛がまた熱を帯びた。(長崎新聞雲仙支局・中村亮介)

 

【メモ】「温蒸素味」の商品はホームページ(https://onmusubi.com)から注文できる。野菜ジャムは4種類あり、1本810円から(送料別)。真空パックの蒸し野菜は送料込みで10種セットが3800円、野菜10種とタイのセットは5400円。

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