心臓の拍動によって送り出される血液は、水道水のような連続的な流れではなく、自転車に空気を入れるような強弱のはっきりした流れです。その強い拍動は、心臓から離れた手首の親指側など、動脈が触りやすいところでも「脈」として感じることができます。「脈」を取ることで、血圧が下がり過ぎていないかと、脈が乱れていないか(不整脈はないか)がわかります。もちろん、血圧計があれば、血圧はより正確にわかります。心臓の聴診をすれば、より正確に不整脈の有無がわかります。従って、今、私が脈をとるのは、血圧を頻回にチェックしないといけないような急患の患者さんくらいです。それも、あまり設備のない外来などに限られています。患者さんの手首に指を当てながら、脈が触れないほど血圧が下がっていないか、逆に、血圧が回復していないかなどを判断しています。

 今から20年くらい前のことです。ある診療所の外来に定期的に通院されていたご高齢の男性を、臨時で診ることになりました。診察を終わろうとした時に、患者さんから「この医者は脈も取らん」と言われました。立腹しておられました。私は、血圧測定により血圧に問題がないことと、胸部の聴診で心臓と肺に問題がないことを確認しておりましたので、わざわざ脈を取る医学的な理由がなかったことを説明しましたが、納得されておられませんでした。そもそも脈を取るということは、昔の人に取っては診察の基本であり、「手当て」だったのだと思います。理屈ではないですね。このような経験もあり、医者が素手で触る「手当て」の重要さについては忘れないようにしています。(佐賀大学医学部附属病院 卒後臨床研修センター専任副センター長 江村正)

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