明治33(1900)年、ロンドン留学に旅立った夏目漱石は、妊娠中の妻を日本に残した。臨月が近づき、妻から子どもの名前を相談する手紙が届く。あれこれ思案し、男の子ならこれ、女の子ならこっち、といくつか候補を書き連ね、返事を出した◆当時は船便しかなく、ロンドンから東京まで片道40日以上かかった。ようやく漱石からの返信が届いたのは、子どもが生まれ、すでに名前がつけられた後だった◆120年前の苦労を思えば…というわけではないが、郵便の土曜配達が来年秋にも廃止されるという。翌日配達も見直され、木曜と金曜に出した郵便は翌週の月曜に届く。手紙よりメールが全盛の時代とはいえ、身近な通信網の縮小はやはり不便に感じてしまう◆以前、本紙「ひろば」欄に「夜の9時半ごろまで郵便配達に来てくれて助かっているが、配達の回数は増え、受け持ち区域も広がってはいないだろうか」と心配する投書があった。配達の見直しは深刻な人手不足が背景にある。かんぽ生命の不正販売といい、民営化は正しい選択だったのか、と首をかしげたくなる◆ロンドンの漱石は、日本に船便が出る日を「郵便日」と日記に書いた。ダイレクトメールばかりが届く現代の郵便日は、心弾むものではなくなっている。残暑見舞いでも書いてみようかと、柄にもなく考える。(桑)

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