近所が決して若くはない住宅街のせいか、夏と冬のひととき、ふだんはひっそりとしたお宅から子どものはしゃぐ声が聞こえてきて、不意に胸打たれるような瞬間がある。網戸の内側にあるにぎわいは、このまちが忘れて久しい光景だろう◆〈わたしは故郷の父が、わたしの帰省を待ちあぐんで母や妹たちに隠れては、日に幾度となく停車場に出かけていつたといふ話を思ひ出す〉。神埼出身の作家吉田絃二郎が随筆「八月の星座」に書いている。東京の学校から帰る長男、県の中学から帰る次男…〈親と子と兄弟が十年前二十年前のなつかしい家庭の空気をとりもどす〉◆お盆の帰省ラッシュが始まった。日並びがいい今年は最大9連休も可能とか。損保会社の調査では、若い世代は実家で「のんびりする」が多いが、年代が上がるにつれ「お墓参り」「親の様子を見に」が増える。故郷には、安らぎと気がかりが複雑に折り重なる◆〈遠い国の客には笑われるけれど/押し合わなけりゃ街は 電車にも乗れない〉。中島みゆきさんの「帰省」は、故郷を離れて生きる心情を歌う。〈けれど年に2回 8月と1月/人ははにかんで道を譲る 故(ふる)郷(さと)からの帰り/束の間 人を信じたら/もう半年がんばれる〉◆ふるさとが人をやさしくする。ずっと笑顔で「おかえり」と迎えてやれる場所でありたい。(桑)

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