診察というと、口を開けて、あーっと言わされて「へら」(舌圧子=ぜつあつし)を突っ込まれたり、胸に聴診器を当てられたりということが思い浮かぶと思いますが、医師が身体診察の最初に行うのは、血圧、脈拍、体温、呼吸状態の観察です。これらのことを、「バイタルサイン」と呼びます。日本語にすると、「生命徴候」となりますが、「生きている証拠」とも言えます。死んだら、血圧はゼロ、脈拍もゼロ、呼吸数もゼロになり、体温は周囲と同じ温度まで下がりますので、あながち間違いではないでしょう。

 これらは、重症度や緊急度を知る上で、救急外来などでは特に役立つ診察項目となります。血圧が非常に低く、脈拍が速く、呼吸数が多い場合は緊急性があると判断します。このような場合は、全身に血液が十分に流れていないため、意識がもうろうとし、歩けず会話もできません。いわゆるショック状態です。でも治療がうまく進むと、血圧が回復し、脈拍も落ち着いてきます。死の淵から脱したわけです。

 一般の外来では、歩いて来られ、待合室で会話ができている方がほとんどですから、バイタルサインの測定の目的は違ってきます。血圧測定では、高血圧がうまく治療できているかが、脈拍では不整脈がないかが、呼吸数では、たとえば気管支ぜんそくの人が、発作が出ていないかがわかります。

 体温は、自宅で簡単に測定できるバイタルサインです。意外と思われるかもしれませんが、熱の高さは、重症度とはあまり関係がありません。発熱以外のバイタルサインや意識状態の異常を伴っているかどうかが、重症度と関係します。だから、熱が高くても走り回っている子どもは、通常心配は要りません。

 バイタルサインは、最近は、診察の前に、器械で測定することが増えており、診察室で、医師が脈を取ることはほとんどなくなりましたが、バイタルサインは、基本的で、かつ、重要な診察であることには変わりありません。(佐賀大学医学部附属病院 卒後臨床研修センター専任副センター長 江村正)

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