女優の山本富士子さんは、初めてのテレビドラマ出演を固辞していた。昭和38(1963)年、大手映画会社・大映の専属を離れ、フリーになった直後のことである◆すでに決まっていた映画の出演は次々に立ち消えとなり、新たに舞い込んだこの仕事も「また壊れるに違いない」と心配でならなかった。「テレビは新しい世界です。そんなことはありません。私を信頼してください」。そう口説き落としたのが後の名プロデューサー石井ふく子さんだった◆半世紀を経て「新しい世界」は大きく変わったのだろう。アイドルグループ「SMAP」の元メンバー3人を出演させないよう民放キー局に圧力をかけた疑いで、ジャニーズ事務所が公正取引委員会から注意を受けた。事務所側は圧力を否定している。ならば、3人の姿をCMやニュース以外で見ることができないのはなぜか◆人気芸能人の独立は「干された」だの「芸名を使わせない」だの不穏なうわさがつきまとう。「大きくなれたのは誰のおかげか」「自分の努力だよ」…一昔前のホームドラマの親子げんかのようでいて、仕打ちは大時代的である◆映画女優だった山本さんがテレビに活路を求めたように、テレビを追われた人気者の主戦場はいまネットの時代。世間の同情を引く独立騒動は、メディアの盛衰と不思議に一致している。(桑)

このエントリーをはてなブックマークに追加