年下の遊び人を亭主に持った髪結いのお崎は夫婦げんかが絶えない。自分のことを本当に大切に思ってくれているか、ちょっと試してみた。落語「厩(うまや)火事」である◆人間は非常の時にその心底が見えるもの。愛用している焼き物の皿を女房が転んで割ったら、亭主が心配するのは皿か、女房か。お崎の芝居に「大丈夫かい?」と駆け寄る亭主。「お前さん、そんなに私が大事かい」。「お前にけがされてみねぇ、明日から遊んで酒が飲めねぇや」◆最後にぽろりと本心が見えたのは、政府も同じかもしれない。ハンセン病の元患者の家族が受けた差別被害に対し、国の賠償責任を認めた熊本地裁判決を受け入れ、反省とおわびの首相談話も発表した。ところが、同時に閣議決定された政府声明では「国家賠償法、民法の解釈の根幹に関わる問題点がある」と判決を批判した。しぶしぶ頭を下げました、と言わんばかりである◆賠償を請求できるかどうかの時効の判断など、他の訴訟に影響が及ぶのを防ぐための措置というが、国がしっかり責任に向き合った上での控訴断念ではなかったか。しぶしぶの姿勢では今後、救済制度の具体化もおぼつかない◆大切に思っているのは、被害者か、法理か。参院選さなかの難しい政治判断である。舌を二枚ものぞかせては、あらぬ「本心」を邪推されかねない。(桑)

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