玄海町で鮮魚や日用品の移動販売を始めた野嵜星矢さん

 水産物の加工販売を手掛ける玄海町平尾の外津水産加工。同社の野嵜星矢代表(31)は4月から、移動販売サービスを始めた。その日に水揚げされた鮮魚を冷蔵車に積み、細い道を縫うように走りながら各家庭に届ける。午前中だけで70キロを走る日もある。

 唐津市佐志の出身。車の整備士やごみ回収業などを経て約5年前、妻の地元玄海町に移住。同時に外津水産加工で働き始めた。

 「近くにスーパーがなく、移動手段もなくて魚を買えない人がいる」。会社に買い物に来る近所のおばちゃんからそんな言葉を聞いたのは、同社で働き始めてすぐだった。「欲しい人がいるなら応えたい」。2013年に立ち上がった若い会社の代表に抜てきされ、移動販売も始めた。

 氷と一緒にサバやアジを詰めた発泡スチロール、タイの切り身などを積み、町内を走る。「かわいいかわいい魚屋さん」。スピーカーから流す歌を聞き付けた町民が、玄関から顔を出した。巡回するのは平日の午前9時から正午まで。走るエリアは曜日によって異なる。海辺に比べ山間部では、すぐ食べられる切り身が売れる。地区ごとのニーズを捉え、運ぶ魚を変える。

 経産省が2014年度に実施した調査によると、全国の買い物弱者は約700万人で、その数は増加傾向にある。それに伴い、移動販売サービスも全国で広がっている。ただ、17年に総務省がまとめた調査結果では、買い物弱者支援事業の7割が赤字を抱えている実態も明らかになった。

 野嵜さんの事業も利益は少ない。それでも「年金で暮らす高齢者を前にして魚の値段は上げられない」と話す。

 事業を始めて2カ月。野嵜さんの元には、巡回時間を指定したり、買いたい商品を注文したりする電話がある。要望に応えるうち、車には菓子パンやバナナ、ごみ袋なども積むようになった。

 町を回ると、おしゃべりが止まらなくなる人、家族と1年以上会っていないとこぼす人に出くわす。野嵜さんは「必要なサービスだと痛感する。もっと規模を広げないといけない」と力を込める。

 ゆくゆくは複数のプレハブを町内に置き、交流所兼スーパーとして運営する構想を描く。「このままでは買い物をする場所が少ないという問題はなくならない」。暮らしやすい町にするため、できることを考えている。

このエントリーをはてなブックマークに追加