「歩」という漢字は「止」と「少」からできている。〈歩く動作の中に/「止まる」動作が/ほんの「少し」含まれています〉。詩人吉野弘さんの「『止』戯歌(ざれうた)」という一編である。ふと立ち止まって、自らの歩みを確かめる。時間の節目にはそんな役割がある◆きのうは九州北部豪雨から2年、きょうは県内初の大雨特別警報が出された西日本豪雨から1年。そして今年は九州南部が記録的豪雨に見舞われたばかり。立ち止まることさえ許さぬように、時を合わせて非情の雨が降り注ぐ◆「正」は「一」と「止」からできている。〈信念の独走を「一度、思い止(とど)まる」のが/「正」ということでしょうか〉。地球温暖化などの影響で、近年の異常気象は過去の経験が通用しない手ごわさがある。これまで正しいと信じてきた防災の考え方を、まちづくりを含めて根本から見直すべき時代かもしれない◆5段階の「大雨・洪水警戒レベル」が新たに導入され、避難情報は盛んに発信される一方で、状況に合わせて「命を守るための行動」をどう取るべきか、住民自身も自治体も、備えはまだ十分とは言えない。「これぐらい大丈夫」という信念の独走をまず止めなければ◆詩句はこう続く。〈「歳」の中にも「止」があります〉。歳月とともに記憶は風化する。教訓を生かす思考を止めてはいけない。(桑)

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