インバウンドの防災対策を知る事業で、旅館施設関係者の参加は少なかった=嬉野市

 昨年7月の西日本豪雨では、佐賀県内の在住外国人約6千人に各市町から出された避難勧告・指示がどう伝わり、避難行動に結び付いたのかが分かっていないのが現状だ。こうした外国人への災害情報伝達の課題に取り組むため、県は本年度から、情報伝達の仕組みを模索する事業を始めた。地域住民でさえ災害情報の理解が進まない中、外国人向けの対応にはさらに高いハードルが待ち受ける。

 昨年7月6日夕方。佐賀市の佐賀商工ビルにある県国際課と県国際交流協会のフロアでは、県内在住の外国人からの電話が次々と鳴った。

 「携帯やスマホの画面に表示された日本語の意味が分からない」。職員はすぐに、県内初の発令となる「大雨特別警戒」を指していると分かり、電話対応に加え、協会のフェイスブックに英語や中国語など数カ国語で災害警戒の意味を翻訳して情報を流した。

 職員は「多くの外国人は、突然響いた警戒音に驚き、画面を見て異様な事態を悟った。ただ避難行動までには至っていないのでは」と振り返る。県消防防災課によると、県内在住の外国人の避難人数について「各自治体から報告が上がっていない」とし、今も実態を把握できていない。

 昨年の豪雨で、外国人への災害に関する情報伝達の脆弱(ぜいじゃく)性が浮き彫りとなり、県は防災対策に特化した多文化共生地域連携推進事業を嬉野市と唐津市でスタートさせた。

 温泉地として海外から観光客が集まる嬉野市は、訪日外国人客(インバウンド)向けの防災対策分野を受け持った。外国人への防災情報対策に詳しい民間団体の代表者による講演があった6月下旬のキックオフセミナーでは、観光業界の関係機関約50人が受講した。

 しかし、インバウンドへの対応実務を担う宿泊関係施設の参加はわずか5施設。業界団体を通じて37施設に参加を促した嬉野市観光商工課の担当者は複雑な思いを隠せない。

 「セミナーの告知が遅れたため、参加が少なかったと思う。ただ、海外旅行客を積極的に受け入れる施設の反応は鋭く、市内数カ所に宿泊施設を展開する老舗旅館は、施設ごとの責任者を送り込んできた」

 ある温泉施設の関係者は、インバウンドの防災対策を足並みそろえて取り組む難しさについて声を潜ませる。「地域一体で取り組むのが効果的だと誰もが知っている。ただ、各旅館には経営体力に差があり、インバウンドに積極的でない施設にとっては、外国人の防災対策は新たな負担になりかねない」。

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