近ごろは何でもキャッシュレス。寺社で拝観料やさい銭までクレジットカードや電子マネーで決済する時代である。京都では、お寺がこぞって反対を表明したそうだ。「ありがたみ」というのは、目に見えるということなのかもしれない◆「驟雨(しゅうう)」という昭和31(1956)年公開の古い映画がある。主人公の隣に引っ越してきた小林桂樹があいさつに持参するのが「そば券」。当時は先端のキャッシュレスだったろう。受け取った原節子は姪(めい)が遊びに来たので早速注文する。出前の自転車を見かけたお隣さんは「もう使ってやがる…」。これも「ありがたみ」の問題だろうか◆作品を監督した成瀬巳喜男は「夫婦もの」を数多く手がけたが、「結婚してからより、独身の時の方がうまかった」と同業監督にからかわれたという。「きっと独身時代は結婚生活に対して大変夢があったと思うんです。夫婦になるとそんな夢なんかなくなってしまうんでしょう」◆〈差向ひ又金の要る話なり〉岸本水府。いかにキャッシュレスの時代とはいえ、金がないことまで見えなくなったわけではない。金の算段のために夫婦はあるようなものである◆決して豊かとはいえない庶民を描き続けた名匠が亡くなって、きょうで50年。代表作「浮雲」にはこんなせりふもある。「人生は別れ際と勘定時が大切だからな」(桑)

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