玄海町の持つ可能性やこれからの取り組みなどについて意見交換した「まちづくりを語ろう会」=6月21日、玄海町役場

町地域おこし協力隊の国重亜樹奈さん

歯科診療所分院長の林聖史さん

町地域振興会職員の青木一里さん

「玄起海」会長の溝上孝利さん

就任1年目の脇山伸太郎玄海町長

佐賀新聞社唐津支社の吉木正彦支社長

 佐賀新聞社は「移動編集局@玄海町」の皮切りとして、町の課題とこれからを話し合う「まちづくりを語ろう会」を町役場で開いた。地元出身者や移住者、医療関係者ら4人が脇山伸太郎玄海町長を交え、それぞれの立場から地域振興を考えた。

 -玄海町を報じる際、「原発の」という枕詞がついて回るが、町内外複眼的な視点から原発だけではない町の魅力を語ってほしい。

 林 和歌山県出身で、歯科医師として全く知らない玄海町に来た。最初は2、3年のつもりだったが、居心地が良く、12年になる。来る以前は原発の印象が強かった。しかし住んでみて食材のおいしさに驚いた。肉も魚も米も果物も全部うまい。子どもたちの舌が肥えるのが心配なくらい。

海に臨む棚田に感嘆 国重

 国重 今年4月、福岡県から町の地域おこし協力隊になった。「棚田プランナー」として浜野浦の棚田の活性化に取り組んでいる。海に沈む夕日を臨む棚田は米を作る場所だけでなく、一つの観光資源として成り立っているのがすごい。

 町はかなり過疎が進んでいるのかと思っていたが、コンパクトに必要なものがまとまっている。コンビニがないので夜9時までに買い物を済ませるといった規則正しい生活が身に付いた。

離れて知る町の良さ 青木

 青木 生まれも育ちも玄海町だが、高校卒業後の10年間は町を離れた。その期間があったから、朝の静かな空気や夜空の星が素晴らしいものだと気付けた。修学旅行でやってきた中学生を家に泊めたことがある。子どもたちが何も世話してない庭をきれいだと言ってくれた。私が当たり前だと思っているものを喜んでくれる人がいる。玄海町は何もないようだが、実は何でもある。

 溝上 37年前、結婚を機に唐津市から移り住んだ。(上場地域の)曲がりくねった山道を走った先に突然、海が現れた時の感動を今でも覚えている。営む漁家民宿には関東や東北からも人がやってくる。九州各地を回りながら、町に立ち寄る人が多いようだ。地域のPRになればと思い、私も自宅で修学旅行生を受け入れている。都会の子どもたちが夜のあまりの暗さに驚く様子が面白い。

 脇山町長 町を一度離れたり、外から入ってきたりした人から話を聞けるのは、気付きとなり、ありがたい。移住定住の施策につなげていかないといけない。実際に住んでみて町の印象が変わった部分があれば教えてほしい。

 国重 よそ者を受け入れてくれるか心配していたが、人は温かく、福岡ではなかった交流ができている。ただ移住者と地域住民が交流できるような場があればもっと盛り上がるし、新しい魅力の発見にもなると思う。

 -町で暮らす中で切実に感じる課題や「もうちょっとこうなれば」と望むことは。

 溝上 1次産業の衰退が深刻だ。漁師がいなくなった港のことを考えると恐ろしい。従事者の意識を変えないといけない。6次産品の開発や農商工の連携、農漁業の体験観光など、人が来て、お金が落ちる仕組みをつくらないといけない。

 青木 私の仕事は町の魅力を発信すること。来た人も、もてなす人も喜んでほしいと思っている。おいしい魚や野菜をアピールするが、旅行者から「どこで食べられるの」と聞かれると困ってしまう。町の特産がいつでも楽しめる道の駅のような場所がほしい。

 国重 旅行者はその土地ごとの「らしさ」にお金を落とす。そういう意味で、玄海町らしさを感じられるものがない。旅行者が「玄海町に行ってきたよ」と言えるようなお土産がほしい。海で遊べる場所、ボートに乗れる場所はあるが、初めて来る人には分かりづらく、ネット予約に対応してない所もある。観光客は「歓迎されてないのかな」と思ってしまう。

切実な交通弱者対策 林

 林 診療所で子どもから年配者まで幅広く接する中で、交通の便の悪さが気になる。高齢者を中心に受診者を送迎しているが、どうしても対応できないときがある。町の人は優しいので待ってくれるが、病院に行きたくても行けない人がいるのはなんとかしたい。

 青木 昔に比べて路線バスの本数が減った。旅行者から浜野浦の棚田までの行き方を聞かれるが、公共交通機関では難しい。

 -小中一貫教育や給食費の全額補助、18歳までの医療費無償化など、恵まれた財源で独自の教育・子育て政策に取り組んでいる。「私ならここに使う」というアイデア、提言は。

 溝上 抜きん出たものを一つ作りたい。よそにないものを作れば人を呼べる。小さな町で循環型社会を実現するなど、SDGs(持続可能な開発目標)に沿った町づくりができればすごいことになると思う。

 青木 スポーツ合宿にも力を入れているが、いろんなことに使える総合施設を造りたい。グラウンド、サッカー場、野球場、キャンプ場など、何でもできる場所がほしい。町は海に面しているのに泳げる砂浜がない。海水浴場を造れば、イベントもしやすくなる。

 脇山町長 確かに海釣りや磯遊びができる公園は魅力的だ。海上温泉パレアの周辺は整備の余地がある。外で泳いで、そのまま風呂に入れるようにできたらいいかもしれない。

 林 子どもの医療費はかなり優遇されている。町外に住む友人から「あり得ない」とうらやましがられるほど。補助が受けられる分を歯の治療に回せるからなのか、町内の子は虫歯が少ない気がする。

 これは唐津市を含めてだが、教育の質を上げていくことが大事だ。子育て世代が移住する際に重要視する部分でもある。具体的な解決策となると、なかなか浮かばないのが実情だが。

 脇山町長 秋田県上小阿仁(かみこあに)村を視察したことがある。玄海町より小さな町だが、学力が高い。理由を聞くと、寒い冬は家の中で祖父母と過ごす時間が長く、その中で勉強するからだと教えてくれた。小中一貫統合校(玄海みらい学園)の特性を生かし、家庭との連携を強め、個性を伸ばして社会に貢献できる子を育てたい。

 -東松浦郡で唯一、唐津市との合併を選ばなかった。一方でこの10年で人口は千人減り、約5600人となっている。町に活力を生むためには何が必要か。

 国重 雇用の拡大が欠かせない。玄海ブランドを立ち上げて、町で生産したものを加工、販売する所ができればいいなと思う。雇用が生まれ、町のPRもできる。それと同時に耕作放棄地が増えている浜野浦の棚田でオーナー制を仕掛けていきたい。新規就農者を募って、1年を通じて耕してくれる人を呼び込みたい。

上場旧4町で連携を 溝上

 溝上 唐津市と玄海町は観光協会が一緒になっている。理事を務めているので会議に参加するが、玄海町の話はほとんど出ない。もっと連携していければ。例えば、上場地域(玄海町、呼子町、肥前町、鎮西町)が連携し、4町を走るバスをつくるなどすれば活性化できると思う。そのためには町民全員が危機感を持って、行政と連携していかないと。

 青木 雇用の前に、まず町民に玄海町を好きになってもらいたい。そのために町外の人と交流し、町の良さに気付くような仕掛けが必要だ。町は宝の山。なにかきっかけがあれば前進できるはず。

 林 若い子育て世代もいいが、子育てが一段落したリタイア世代が移住できる受け皿があればいい。これから増加する高齢者をどう町づくりに巻き込むかを考えたい。町民に対するアンケートをやってみてはどうか。小さな町だからこそ、一つ一つの声を聞ける。

 脇山町長 商工会青年部に所属していたころ、先輩たちが「玄海町には原発しかない」と言っていて、カチンときていた。上場旧4町にはイカや名護屋城などそれぞれの強みがある。町もこれから棚田の開発に力を入れる。地域おこし団体だけでなく、商工会や観光協会、行政が連携して周遊できる仕掛けを考えていきたい。

 

■出席者

▽国重 亜樹奈さん(28)=町地域おこし協力隊

▽青木 一里(いちり)さん(47)

=町地域振興会職員

▽溝上(みぞうえ) 孝利さん(60)=漁家民宿経営、地域おこし団体「玄起海」会長

▽林 聖史さん(45)

=下平歯科医院玄海診療所分院長

▽脇山 伸太郎さん=玄海町長

■進行

吉木正彦・佐賀新聞社唐津支社長

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