エイズや性を巡る問題を考える「第5回AIDS文化フォーラムin佐賀」が今月8日、佐賀市天神のアバンセで開かれ、AV男優の森林(もりばやし)原人(げんじん)さんやHIV診療医の岩室紳也さんらが、正しい性の知識やつながりの重要性を訴えた。講演とトークショーを通してエイズや性教育、セクシュアリティーの課題を探ったフォーラムの様子を詳報する。

 

 トークショー  「AVはまねしちゃいけない」


  なぜ「性教育動画」  

森林原人さん=AV男優 「本当の性教育」が必要

性教育動画を作成し、「AVはファンタジー」と語るAV男優の森林原人さん

森 林 日本の学校の性教育は、受精の話はできるが性交の話はできない。だから興味を持った生徒はインターネットでAVの映像を見つけて、それが性交・性行為だと理解する。ならば正しい性の知識を同じネット上にアップしておけば、比較して「これが正しい、AVはファンタジー(幻想)だ」と分かってもらえるのでは。そう考えて性教育動画を作り、「本当の性教育」というチャンネルでユーチューブにアップした。40コンテンツを作り「AVのまねしちゃダメ!」は約26万回再生された。まねしちゃいけない、ファンタジーなんだとAV男優の僕がもっと言っていかなくては。

しじみさん=女優 AVで勘違いしないで

性教育動画に出演した女優のしじみさん。性に関する正しい情報の必要性を述べた

しじみ 10年前までAV女優をしていた。痴漢物とか、AVの中では絶対女性が喜ぶ。それで勘違いする人はいるのかな。
森 林 みんながAVをまねるわけじゃないが、まねする人がいるのも現実。
しじみ AVを見ているおかげで犯罪を防げた例もあるかもしれない。
上 村 感染症などは教えるが、本当に知りたいのは実際のセックスのやり方。学ぶにはAVしかない。そうなると、AVの内容を当たり前に思う人がいる。
森 林 潮吹きにも、いろいろと装置がある。ホースを仕込んだり、利尿作用のある漢方を入れたお茶を1.5リットル飲んだり。多くの場合は仕込みや技術や編集があって、見る人を意図的に興奮させる映像を作る。「AVは教科書にならない」と多くの人に知ってもらうことから、僕たちの考える性教育を始めていきたい。

上村茂仁さん=産婦人科医 「性的同意」理解して

性教育動画を制作した産婦人科医の上村茂仁さん

上 村 痛いとか嫌だと感じても我慢する女性や、気がつかない男性がいる。
しじみ 相手(男性)を傷つけるかもしれないと思うと、はっきりとは言いづらい。
森 林 「性的同意」という概念が日本でなかなか浸透しないのは、察することや我慢、自己犠牲を美徳とするから。日常的に考えていかないと難しい。
上 村 SNSで男性が「酔った彼女に同意を取りセックスをした。後日『同意した覚えはない』と言われたがレイプになるか」と聞いていた。結果的に彼女は性的同意を取っていない、正常な判断でないと訴えた。性的同意を理解できれば、デートDVなどの被害も防げるのでは。

森 林 性とは何か。命と命、自分と他者、自分と自分の内面をつなぐものだと考える。動画では相手との関係性、性欲やセクシャリティー、妊娠・避妊とコンドームなど、考え得る限りの性に関わる問題を網羅した。困った時、誰に相談していいか分からない時、正しい情報がどこにあるのか迷った時に見てくれたらうれしい。

 

 講演  100の「居場所」持って 岩室紳也さん(HIV診療医)

岩室紳也さん

 私は14年前、今より12キロ太っていて半年でやせた。誰かとつながり、心に響く経験がないとダイエットのきっかけは生まれない。なぜできたのか、どうして続いたのか、いろいろな理由があるが一番はサポーター。関わり、つながり、支え続ける複数の居場所が大切だと思う。
 自分の居場所を最低でも100、数えられるようになってほしい。自殺対策で重要なのは、居場所をいくつも持っていること。健康づくりでも、地域のつながりが非常に重要だといわれている。「信頼、つながり、お互い様」の三つがそろっている所に暮らしている人は、非常に健康的だと証明されている。
 依存症の反対は、つながりや居場所。人は話すことによって癒やされる。他の人と話さないと、周りがみんな立派に見える。話してみると、一人一人いろんなトラブルを抱えている。話さないと分からない。
 陸前高田市で、ある人がアルコール依存症で入院させられた。東日本大震災の津波でその人の家を除き集落全部が流され、孤立したその人は依存症になってしまった。しかし別の集落の人が「一緒に祭りやらないか」と声をかけてくれて、脱却できた。
 いろんな人たちがつながって、一人一人ができることを重ねていけば、HIVも薬物も減り、生きやすい世の中になるのではないか。われわれは人なのか、人と人との間に生きる、「人間」という存在なのか。特に若い方々。つらいこともいっぱいあるけど、人と人との間に生きている人間という存在であることを、かみしめながら生きていってください。

 

 トークショー  平良「100人いれば100通りの性」/古川「宗教は人を縛らない」

平良愛香さん=牧師/古川潤哉さん=僧侶/聞き手・岩室紳也さん=HIV診療医

 

「宗教とエイズ」をテーマに、LGBTの人権について語る牧師の平良愛香さん

◆ 宗教は「性」をどう捉えるか

平 良 僕はゲイであることをオープンにして牧師をしている。過去にキリスト教で、同性愛やトランスジェンダー(戸籍上の性と自認する性が不一致)は罪と言われていた。しかし聖書の研究が進み、時代に応じて改革が起こっている。聖書に「神様が人間を作った」とある。僕は同性愛者として神に作られたと思わざるを得ない。人それぞれ違うものを持って神様に作られた。100人いれば100通りの性があっていい。
古 川 仏教は、ご縁によってたまたま人間としてここにいる。浄土真宗は「何々をしてはいけない」という否定の形を取らない。
岩 室 エイズウイルスに感染するのは?
古 川 本人の行動など、きっかけも含めて縁。防げるものは防げばいいが、どうしようもない縁もある。

 

「宗教とエイズ」をテーマに、仏教の考え方を語る僧侶の古川潤哉さん

◆ 宗教で「生きる」とは

平 良 社会は生産性や効率、結果を求めて、大事なものが排除されたり無視されたりすることが多い。何も損なわず一つ一つを大事にできるんじゃないか。生きづらい状況にある人と、どうやって一緒に生きていこうか考えるのが宗教。
古 川 生まれたから苦しい、生きること自体を苦しみと受け止めるところに仏教の根源がある。浄土真宗は「私」という捉え方が「愚者」。人間は自己中心的にしか物事を見ることができない。自分の見える範囲で勝手に判断しちゃいけないよ、と言っている。それぞれでいいじゃないかと。


◆ 宗教と道徳は違う

岩 室 宗教の考え方から、新たな価値観を知った。
古 川 宗教は救いがあるが、道徳は一度踏み外すと帰ってきづらい。踏み外すこともあるけどそこから立ち直りましょう、あなたも救いの中にありますよ、というものが宗教であって、人を縛るものではない。世間の常識や人の意見でがんじがらめにされてつらい状況を、宗教という別の価値観によって「そうではなかった」と受け止められるのが信仰の喜びだと思う。
平 良 ときには道徳的ではないことも話す。「みんな仲良くしましょう」は人を縛る。僕は「時には仲が悪くてもいいけど、大切な存在だと認めていこう」と言っている。好きになる必要はないが、他者も大切な存在だと知っていてほしい。

 

 

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