鹿児島県大崎町で1979年に男性の遺体が見つかった大崎事件の第3次再審請求審で最高裁第1小法廷は、殺人と死体遺棄の罪で懲役10年が確定し服役した元義姉原口アヤ子さんの裁判のやり直しを認めない決定をした。鹿児島地裁と福岡高裁宮崎支部が再審開始決定のよりどころとした弁護団提出の新証拠について、証明力を否定した。

 第1次請求でも地裁は開始を決定。3度も開始が認められながら、またも再審の扉は開かなかった。最高裁は通常、憲法違反や判例違反の有無を審理。事実認定に踏み込んで判断を示すのは珍しい。地裁、高裁の開始決定取り消しは、75年の最高裁決定が再審請求を巡る判断の枠組みを示して以来初めてのことだ。

 「白鳥決定」として知られる、この決定は「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の原則が再審にも適用されるとした。地裁と高裁がそれぞれ異なる角度から確定判決に疑問を呈し、再審を認めたことを踏まえると、今回の最高裁決定が白鳥決定から逸脱したものではないかとの声が上がるのもうなずける。

 「無辜(むこ)の救済」の扉は狭まるのか。そうした懸念も広がる中、再審請求審の長期化によって請求人が司法判断に翻弄(ほんろう)され続けるのを避けるためにも、証拠開示の問題を含め再審制度の在り方を巡り停滞している議論を前に進める必要がある。

 原口さんは逮捕当初から一貫して関与を否定した。しかし確定判決は知的障害のある元夫ら親族3人の自白や、原口さんが自分の夫に殺害を持ち掛けたとする元義妹の証言などを基に、元夫の弟である男性の振る舞いを快く思っていなかった原口さんが元夫らと共謀して、タオルで首を絞めて殺害したと認定した。

 原口さんは80年に鹿児島地裁で懲役10年の判決を受け、81年に最高裁で確定し服役。95年になり申し立てた第1次再審請求で2002年に地裁の開始決定が出たが、高裁支部に取り消された。第2次請求は退けられ、15年に第3次請求をした。

 弁護団は元義妹による供述の信用性に疑問を投げ掛ける心理学鑑定と、男性の解剖時の写真を分析し「事故死」の可能性を指摘した法医学鑑定を新証拠として提出。17年の地裁決定は心理学鑑定を、18年の高裁支部決定は法医学鑑定をそれぞれ重視した上で再審開始を認める結論を導いた。

 だが今回の最高裁決定は法医学鑑定を「条件が制約された中で工夫を重ね専門的知見に基づく判断を示した」と評価しながらも、遺体を直接検分しておらず、写真からしか情報を得ることができなかったため証明力に限界があると指摘。調書記載の供述の変遷を分析した心理学鑑定も限定的な意味しかないとした。

 いずれも「無罪とすべき明らかな証拠」とはみなされなかった。科学鑑定を厳格に判断した結果とはいえ、現在92歳で鹿児島県内の病院に入院中の原口さんにとっては酷というほかない。第3次請求審では検察側が地裁の勧告を受け入れ、事件から30年余りたって初めて、男性の解剖時のネガフィルムを開示するなど、証拠開示の問題も改めて浮き彫りになった。

 再審には開示のルールがなく、請求人側は裁判所の訴訟指揮に頼るしかない。それが審理長期化の一因となっており、法曹界は再審を巡る法整備の議論を急ぐべきだ。(共同通信・堤秀司)

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