「水の上を走る」という独自の練習法を編み出した陸上選手がいた。伝説のスプリンター吉岡隆徳(たかよし)。1932年のロサンゼルス五輪100メートルで6位入賞。この種目で五輪の決勝に進出した日本選手はいまも吉岡ただ一人である◆水上走法はこうだ。まず水面に右足を出す。その右足が没しないうちに左足を出し、左足が沈まないうちに右足を繰り出す。これを激しく繰り返すと水の上を数秒間走ることができる。吉岡は銭湯の大浴場などでやってみて筋力の鍛錬になったという(辺見じゅん著『暁(あかつき)の超特急』)◆100メートルといえば「9秒台」時代の幕開けを告げたボブ・ヘイズ、ジム・ハインズという名選手を思い浮かべる。日本では吉岡に師事した飯島秀雄が64年の東京五輪直前に10秒1を出したが、本番では準決勝で敗退、「ファイナリスト」は夢に終わった◆ところが、いまや日本は群雄割拠の様相。自己ベストをみると、サニブラウン・ハキーム9秒97、桐生祥秀9秒98、山県亮太10秒00、小池祐貴10秒04、多田修平10秒07、ケンブリッジ飛鳥10秒08、飯塚翔太10秒08。なんと頼もしいことか◆そのほとんどがあす27日から福岡市である陸上の日本選手権に出場する。35年に当時の世界タイ記録(10秒3)を3度たたき出した吉岡の再来はなるか。来年の東京五輪を占うレースが楽しみだ。(丸)

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