日々、悲しいストーリーを傾聴し、35年間が過ぎました。若い頃は、ひたすらカルテに向かって記録することで精いっぱい。今は、還暦を過ぎ、患者さんの涙に共鳴して、私も涙がにじんできます。今日、ここに来られてよかったとお互い安心する毎日。人は悲しみの記憶が消えにくい。おそらく、いのちの危険から身を守るためでしょう。メンタルヘルスに悩む方の多くは、自分の否定的な面ばかりに目を向ける傾向があります。周囲の評価ばかり気にして、自分の考えを表現するのが難しい。相手を傷つけるかもしれないと思い、慎重に言葉を選びます。自信がなく、睡眠がとれない、食事は1日1食とか、生活リズムは昼夜逆転。どこの大学生も同様のようです。教職員の場合、職場では、上司が部下の欠点ばかりを指摘し、沈黙の空気が流れると、組織全体の士気が低下し、機能しなくなっていきます。先日の留学生は約2~3年間、引きこもり、ビザの更新がなされておらず、不法滞在を指摘されましたが、診断書や関係者の相談で1年間のみの帰国という処置でどうにか切り抜けました。

 私の仕事は、悩める人の視点をネガティブからポジティブにシフトさせてあげられるかどうか。ポジティブな面を探し、光を当てながら、本来の自信を取り戻すことを援助することにあるのかなあと感じています。人間関係の中で、一番つらいのは沈黙。語り合えるだけのエネルギーが枯渇し、考える力さえ失っている方が相談に来ます。沈黙、引きこもりがちの学生の多くは、自分と他者との闘い。私は、免疫機能の過敏な反応を比喩して、「こころアレルギー」と命名しました。人間関係は本当に難しいですね。近いうちに、佐賀新聞社から本を出版します。(九州大学キャンパスライフ・健康支援センター教授・副センター長・統括産業医 佐藤 武)

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