多くのキャラクターが登場する幻想的な世界を描く仁戸田典子さん=大分市

「遠き日の何処か」(S30号、2018年)

「朔望」(S10号、2018年)

 面差しも、装いも千姿万態。細緻に描き込まれた、無数のキャラクターの喧噪(けんそう)が聞こえてきそうだ。「遠き日の何処(どこ)か」(2018年、S30号)。万歳をして喜び合ったり、物憂げな表情を浮かべたりと、誰ひとり埋没することなく、そこかしこで“物語”を紡いでいる。

 童話の一場面を切り取ったような幻想的な世界が代名詞。ルネサンス期の画家ヒエロニムス・ボスが描いた寓意(ぐうい)的な三連の祭壇画「快楽の園」との出合いが、スタイルを確立していく上で、大きなヒントになった。

 画面いっぱいに描かれた男女が、奇態な生物や建物と絡み合う神秘的で不可思議な作品。「描かれるキャラクターが多彩で細密。画面のどこを切り取っても、物語性に富んでいる」。引き込まれた。

 佐賀大大学院で学んでいた2010年、若手芸術家の登竜門「昭和会展」で最高賞を受賞。地獄図をイメージし、こびとのようなキャラクターがうごめく独特の世界観を表現し、飛躍のきっかけをつかんだ。

 “密集感”のバランスに気を配りながら、おびただしい数のキャラクター一人一人に命を吹き込む。「創作に対する熱を、外へ放出していく感覚で取り組んでいて、壮大な舞台をキャラクターが増殖していくイメージ。細かい作業は地味だけれど、仕上げたときの達成感が魅力」

 一昨年結婚し、5年間過ごした東京から大分市にアトリエを移した。新たな気持ちで取り組んだ「遠き日-」は、巨大な門が半分ほど開き、キャラクターが1人また1人と門の向こうへ進んでいく。その姿に、自らが創作に向き合う決意を込めた。

 昨年亡くなった祖父をイメージした「朔望」(2018年、S10号)のようにモチーフが1人の作品も。群衆の作品とは対照的に「心情的には内向きのベクトル」でキャンバスと対峙(たいじ)。人の命や内面を静かに見つめ、表現の幅を広げている。

 近代日本をリードした洋画家・岡田三郎助(佐賀市出身)のアトリエが県立博物館隣に移築された際、現地で公開制作を経験した。それが、後世に受け継がれる作品の意義を再認識させられる機会となった。

 地続きの過去に学びながら「今の時代の息遣いや空気感を感じ取れる作品を、次代に残していけたら」。愛するキャラクターたちと創り上げるストーリーは、さらなる深化と進化へと向かう。

 にえだ・のりこ 1986年生まれ、唐津市出身。唐津東高-佐賀大学美術・工芸課程卒、同大学院美術教育専修修了。高校時代、バドミントン部から美術部に移り、本格的に絵に取り組んだ。2010年、第45回昭和会展で最高賞の昭和会賞に輝いた。14年には佐賀銀行文化財団新人賞を受賞。大分市。

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