自分にとって「不都合な真実」から逃げ、説明責任を果たそうともしない安倍晋三首相の姿勢だけが際だった。

 安倍首相と野党4党首による今国会初の党首討論が開かれ、老後に夫婦で2千万円の蓄えが必要と試算した金融審議会報告の受け取りを拒否した麻生太郎副総理兼金融担当相の対応などに質問が集中した。

 立憲民主党の枝野幸男代表は、報告書受け取り拒否と森友学園を巡る財務省の公文書改ざんには「見たくない事実はなかったことにして、ごまかす姿勢」が共通しており、国民の大きな不信を招いていると指摘した。政権の体質を問うたのだが、安倍首相は報告書の表現に問題があったと答えるにとどめた。政権の体質が焦点になることを恐れたのだろう。

 この国会では2019年度予算が成立して以後、衆参両院で安倍首相が出席する予算委員会が長らく開かれておらず、夏の参院選に向けて、与野党の論争が何とか始まった形。しかし、参院選への影響を懸念する安倍首相の消極的な姿勢のため、議論は深まらなかった。

 いわば「選挙対策」で国会審議の場も設けず、肝心の争点自体も「なかったこと」にし、野党党首にも正面から向き合わない。これでは議会制民主主義が機能するはずもなく、有権者から1票の権利を行使する上での判断材料を奪うことにもつながる。安倍首相は逃げずに説明責任を果たすべきだ。

 報告書に関連して、国民民主党の玉木雄一郎代表は5年に1度、年金の給付水準などを点検し、将来的な見通しを示す財政検証の公表が、例年より遅れている点を指摘、「なぜ速やかに出さないのか」と追及した。

 財政検証を巡っては内容が厳しいものになるため、参院選後に先送りされるとの見方もある。安倍首相は「専門家が政局とは関わらずしっかりと検証して、報告をしてもらいたい」と人ごとのように答えるだけだった。

 諮問した側の閣僚が報告書の受け取りを拒むという対応が、行政や国民に与える影響もテーマとなった。玉木氏は「諮問したのは麻生氏、頼んでおいて、出てきたら受け取れないと、こんなことやってたら、やってられないとなる。行政のガバナンスが衰えていく」と批判した。

 安倍首相ら官邸に協力姿勢を取ることもある日本維新の会の片山虎之助共同代表も「受け取ったらいい。(報告書は)公文書。10年は残る。国立公文書館にも行く」と述べ、政権の都合で公文書を恣意的(しいてき)に扱うことを批判した。

 党首討論では触れられなかったが、公文書改ざんなどで問題になった「忖度(そんたく)」が官僚組織だけでなく民間の有識者らからなる審議会にもまん延する可能性もある。

 これまでも所管する省庁の官僚が事務局を担う審議会に対しては「結論ありきで、広く意見を聞いたというアリバイづくり」という批判がつきまとっていたが、今後は諮問側の意向に完全に沿うような結論の「アリバイづくり」にさえならない代物が出てくる可能性がある。

 党首討論は昨年6月以来で1年ぶり。まともな政策論議にはならなかったが、不都合な真実から有権者の目をそらさせようとする振る舞いが続くなら、それこそ1票の判断材料にすべきだろう。(共同通信・柿崎明二)

このエントリーをはてなブックマークに追加