わなに掛かったイノシシを処理する山口勝子さん(右)と秀一郎さん=伊万里市内

 6月上旬、伊万里市内の国道沿いの竹やぶでイノシシが箱わなに掛かった。猟友会の山口勝子さん(68)=同市木須町=が電気ショックで絶命させた後、息子の秀一郎さん(40)が引きずり出して言った。「ジビエにしても良かったね」

 山口さんは市内各所に箱わなを仕掛けて年間200頭前後のイノシシを捕獲しているが、車の免許を持っていない。夫が亡くなった後は秀一郎さんがパートナーになっている。

 この時に捕殺したイノシシは、猟友会の人たちが「肉がやわらかくて一番うまい」という重さ40~50キロのメスだった。「伊万里のイノシシは果物や米をたくさん食べるからおいしいと評判で、鹿児島や宮崎からも捕りに来るんですよ」と山口さん。ただ、電気で殺すと体が硬直して血抜きができず、肉が臭くなってしまう。

 国は獣害対策の一環として、イノシシやシカの食肉利用を推進している。しかし現状では、駆除目的で捕獲されたイノシシのうち、ジビエとして利用されているのは1割に満たない。ジビエの流通を拡大していくには、安定供給や衛生管理などの面で多くの課題がある。市猟友会の前田幸彦会長(72)は「鹿児島や宮崎のようなイノシシを食べる文化をつくっていくことも大事」と話す。

 現在、捕獲されたイノシシのほとんどは埋設か焼却処分されている。伊万里市では、捕獲した人の責任で埋設することになっているが、猟友会の誰もが広い土地を持っている訳ではなく、場所の確保に苦労している。隣の武雄市や有田町は処理業者に任せる仕組みができており、事務局長の山口さんは市に「もう少し支援がほしい」と繰り返し要請している。

 猟友会は市内の山中2カ所に「カラス小屋」と呼ぶ大きな檻を設置している。イノシシと同様に農家を悩ませるカラス用のわなで、年間300~500羽を捕獲する。餌に使うのは果物やイノシシの死骸。その光景は臭いも相まって顔を背けたくなるが、野生動物から暮らしを守ることの、むき出しの現実があった。

 「動物を殺すことに厳しい目を向ける人の気持ちは否定しません。でも、収穫前の畑を荒らされる農家の人のことを考えると、誰かがせんといかんと思います」。イノシシの農作物被害はこれから秋にかけて増えていく。猟友会も忙しくなり、山口さんの電話は朝から鳴り続ける。

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