わなに掛かったイノシシを電気ショックで絶命させる山口勝子さん=伊万里市内

 夜も明けきらぬ早朝。伊万里市木須町の山口勝子(かつこ)さん(68)は目を覚ますとすぐに化粧を済ませ、自宅脇にある事務所の明かりをつける。そこは船舶塗装会社のほかに猟友会の事務所も兼ねていて、朝から入れ代わり立ち代わり訪れる人を、いつも笑顔で迎えている。

 山口さんは伊万里市猟友会(会員数107人)の事務局長で、行政への申請手続きや市民からの問い合わせ対応を1人で担っている。従業員13人の会社の経理もやり、「『家族で一番忙しいから、ボケる暇はないね』と息子たちに言われるんですよ」と笑う。

 猟友会に加入したのは9年前。会員だった夫が、事務仕事なんてできないのに事務局長を引き受けたのがきっかけだった。手伝うには会員でないと都合が悪いだろうと狩猟免許を取得した。現場も踏むようになり、7年前に夫が亡くなった後も、毎年200頭前後のイノシシを捕獲している。

 近年のイノシシ猟は、わなを使った捕獲が主流で、山口さんは市内20カ所以上に箱わなを仕掛ける。事務仕事の合間を縫って見回り、イノシシが掛かっていればその場で殺処分する。使用するのは電気ショックを与える棒状の機具。銃や刃物でとどめを刺すより安全で心身への負担も軽く、ここ数年で広く普及した。

 檻(おり)の中のイノシシは人が近づくと興奮して何度も突進してくる。鉄柵がガシーン、ガシーンと大きな音を立て、今にも壊れそうだ。「こうやって暴れる成獣よりも、うり坊(幼獣)の方が殺すのに抵抗がある。しっぽを振って近づいてきて、かわいそうで逃がしてやりたいと思うけど、すぐに大きくなるから…」。イノシシは多産で毎年春に4、5頭を産む。

 市猟友会の前田幸彦会長(72)によると、伊万里の山では1990年代に入ってイノシシを見掛けるようになり、10年ほどで一気に増えたという。狩猟者の減少や山間地の過疎化によって生息域が広がり、人間の生活圏に侵入してきた。「一番多かった時は、学校に入ってきた、車とぶつかった、としょっちゅう呼び出された」

 伊万里市は農作物などの被害を防ぐため、年間を通した駆除を猟友会に依頼している。市内で毎年3千頭以上を捕獲しているが、3~4割が幼獣のため、個体数は大きく減っていない。イノシシは学習能力が高く、成獣をわなで捕らえるのは容易ではない。「気の利いたのは、わなに近づこうとする子どもを、鼻であっちに行けって追いやるけんねえ」。前田さんは苦笑いした。

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