♪柴(しば)刈り縄ない草鞋(わらじ)を作り…と献身的で、唱歌に「手本」と歌われた二宮金次郎に、戦後「泥棒説」を唱えた人がいるそうだ。薪を背負って読書する銅像は有名だが、「極貧で山など持っていないのに、背中の薪はどこから持ってきたのか」と◆事実の断片をつなげれば、確かに疑わしい。しかし当時、農村には共同利用できる「入会山(いりあいやま)」があった事実を知っていれば、金次郎は常識的な人物像になる。歴史は一面的ではない―司馬遼太郎さんが『手掘り日本史』で教える挿話である◆久しぶりに佐賀市の書肆草茫々(しょしくさぼうぼう)=電話0952(31)1608=から『久原明(くはらあきら)伝』という本が出た。久原氏は県建設業協会の理事長などを務め、昭和20~30年代、鍋島直紹(なおつぐ)、池田直(すなお)両知事の擁立に関わった人物。特に池田県政時代は、その蜜月ぶりから「影の副知事」とも呼ばれた◆とはいえ、同書は県政裏面史めいた趣とはやや異なる。著者は久原氏の三男で元高校教員の閑(かん)さん(76)。子どもが生まれた親族に「親になる覚悟を伝えたかった」と執筆。多忙ながら時折見せる家庭人としての素顔など、決して一面的でない歴史が浮かび上がる◆昭和、平成、令和と時は流れ、今残しておかなければ埋もれてしまう記憶もある。小社刊『自分史ノート』も好評という。誰もが地域の歴史を豊かにする証人である。(桑)

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