戦時中の昭和18(1943)年、通っていた幼稚園の舞台の上に、大きな日の丸が掲げられた。中国文学者、高島俊男さんの思い出である。片仮名で横書きの標語が添えてあった。「ムマヤシテチウ…?」。何度読んでも意味がわからない◆右から読めば「撃ちてし止まむ」なのだが、そう読む発想がなかったという。前年の17年には国語審議会が「横書きは左からに統一」と答申。終戦まで日本語の横書きはすべて右から、とばかり思い込んでいたが、左書きも一般的だったとは◆日本人の名前をローマ字で書く際、日本語表記と同じ「姓・名」の順にするよう文化庁が都道府県などに要請するそうだ。例えば首相なら「ABE・SHINZO」。知人に尋ねると「中学校の英語の教科書は、とっくにそうなってます」。書き方の変化は知らないことばかり◆「SHINZO・ABE」と「名・姓」の順で書くのは明治の欧化政策の名残。海外では習近平国家主席ら中国、韓国の首脳は「姓・名」表記なのに、日本だけひっくり返すのはおかしい、という理屈も一理ある◆戦時中の「横書きは左から」の答申は反対が強く、定着させたのは戦後の占領政策だった。長年の慣習を覆すのは難しい。クレジットカードなど「名・姓」表記で便利さに浸る世の中に、混乱を招いては「本末転倒」だろう。(桑)

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