「いってらっしゃい、気をつけて」。早朝、自宅から送り出した直後だったろう。家族の日常を切り裂く凄惨(せいさん)な事件がまた起きた。最近、車が凶器となる事故が続いたが、今度は刃物を持った男による無差別殺傷事件。突然、理由もなく命を奪われた無念を思うと言葉もない◆現場は川崎市の住宅街の一角。通学や通勤の時間帯だった。送迎のスクールバスを待つ小学生らを刃物を持った男が次々に襲ったという。目撃者の話によると路上にランドセルが散乱、血だらけで倒れていた男性もいた◆小学生が刃物で襲われた事件で思い起こすのは大阪教育大付属池田小で8人が亡くなった児童殺傷事件だ。この時は校内に男が侵入、学校の安全性が問われた。今回は通学の路上での事件。防ぐ手立てが思いつかない。無差別殺傷では人混みにトラックで突っ込み、ナイフで17人を死傷させた秋葉原事件も思い出す◆「わが子が、家族がなぜこんな目に遭わなければならなかったのか」。通り魔事件で家族を亡くした遺族にはそうした思いが消えることはない。その「なぜ」を解き、深層を探ることが凶行を防ぐ手がかりにつながる◆ところが、犯行に及んだとされる男も死亡した。目的も動機も分からないままではあまりに理不尽だ。「気をつけて」と見送った後ろ姿はもう見られないというのに。(丸)

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