安倍晋三首相は国賓として来日したトランプ米大統領と会談し、日米貿易問題を巡る閣僚級協議の加速や、朝鮮半島の非核化と北朝鮮による日本人拉致問題の解決に向けた連携などを確認した。

 ただ、農産物の関税撤廃・引き下げや北朝鮮の短距離弾道ミサイル発射に関しては、両首脳の見解の違いが浮き彫りになり、共同声明も発表されなかった。今回の首脳会談で先送りした懸案は、今後、日米間で重い課題となろう。真の同盟に向けて、摩擦を恐れない真摯(しんし)な議論が求められる。

 令和最初の国賓となった大統領の来日は、天皇、皇后両陛下にとって初の外国首脳との会見や、ゴルフ、大相撲観戦などの日程を組み込む異例の厚遇で、同盟関係の強固さを内外にアピールすることに狙いがあったと言える。歓迎ムードを前面に打ち出し、貿易問題などで深入りを避ける戦略もあった。

 4月のワシントンでの首脳会談では5月の訪日で貿易協定を結ぶ可能性に言及した大統領もこれに応じ、決着を夏の参院選後に先送りした。だが、日本に対する厳しい姿勢を変えたわけではない。対日貿易赤字の削減の必要性を強調し、貿易交渉にも「8月に大きな発表ができる」と自信を示した。

 日本側が農産物などの物品関税について、環太平洋連携協定(TPP)の水準を防衛ラインとしているのに対して、大統領は「TPPには縛られない」とも明言した。

 来年の大統領選再選に向けて具体的な成果を求める大統領は、今後の交渉で、より強硬に迫ってくるだろう。参院選への影響を避けるという「借り」をつくる形で先送りした懸案は逆に重荷になりかねない。だが、日本側も安易な妥協は許されない。自由貿易と多国間主義の原則に立った粘り強い交渉が求められる。

 北朝鮮への対応でも見解の違いが鮮明になった。北朝鮮の短距離弾道ミサイル発射について、首相が会談後の記者会見で「国連安全保障理事会の制裁決議違反だ」と明確に述べたのに対し、大統領は「北朝鮮は核実験をせず、長距離ミサイルも発射していない」と問題視しなかった。米領土に届かなければ許容するのか。首相は米朝協議のアプローチを支持すると述べたが、不十分だ。

 首相は拉致問題解決を図るため、前提条件を付けずに金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長との会談実現を目指す方針を伝え、大統領は支援を約束した。とはいえ、首相が認めたように、日朝会談は現時点でめどが立っているわけではない。決意だけでなく、実現に向けた戦略的な取り組みが必要だ。

 対立が続く米中摩擦で、首相は6月に大阪で開く20カ国・地域(G20)首脳会合も念頭に対話による問題解決に期待感を表明した。しかし、大統領は会見で中国を厳しくけん制した。日中関係改善を進める日本だが、米中間で存在感を発揮するのは容易ではなかろう。

 米国の一方的な核合意からの離脱で緊張を増すイラン情勢を巡り、首相は6月中旬にイランを訪問する意向を伝達、「緊張状態を緩和するよう努力したい」と述べた。中東情勢は日本にとってエネルギー供給の「生命線」に関わる課題だ。大統領は日本とイランの伝統的な関係に理解をみせ、見守る考えを示した。首相の外交手腕の真価が問われる局面となろう。(共同通信・川上高志)

このエントリーをはてなブックマークに追加