「私は健康だから病院にも行かない」と言われる方が時々いらっしゃいます。確かに病院にもかかったことがないのであれば、病気知らずで健康なのかもしれません。しかし、本当にそうでしょうか。

 そのような時に、私はこう尋ねます。「ところで、健診は受けたことがありますか?」。そこで返ってくる答えはほとんどが「受けていない」です。自分の身体の状態を知らずして、本当に健康だとは言えませんし、今まで運よく何も起こっていないだけのことでしょう。病気は突然やってくることがあります。それは、前もって知っていれば、防げたことだったかもしれません。後悔先に立たず。そんな言葉が脳裏をよぎった時は既に後の祭りです。

 平成29(2017)年度の唐津市における国民健康保険のデータを見てみると、40歳から74歳までの特定健診を受けている人の年間医療費平均が8491円なのに対して、健診を受けていない人は3万3644円となっています。自分を知らないことが結果的に医療費を上げ、生活を圧迫してしまうことにつながります。

 生きていくうえで「知る」ということは大切です。私が過疎地で生きるための「三つの自立」として掲げている「身体的自立」「経済的自立」「精神的自立」も、要となる身体的自立のために自分の身体を知るということから始まります。そのために取り組んでいることは、七山における特定健診受診率の向上と医療関連知識の普及啓発です。

 身体のことを知るためには、どうしても血液検査等の各種検査、そして医師の診察が必要になります。病院の敷居が高く感じる方でも、特定健診であれば受けやすいです。そこで、保健師と協力して健診の受診勧奨や健康教育を行い、集団健診で受けることができなかった方がいつでも気軽に診療所で個別健診が受けられるように連携体制を整えています。

 また、住民に自分のことを知ってもらうのと同様に、地域の状況や社会の流れに伴う変化を知ってもらうことも重要視しています。それは、地域も人の身体と同様に生きているものであり、その現状や未来予測をしっかりと認識して対応しなければ、結果として地域の寿命を縮めることになってしまうからです。

 七山の住民がそれらのことを「知る」ために、2年前から巡回寺子屋を行っています。「全ての住民に学びの場を」ということをスローガンに、七山の医師、歯科医師、保健師で七山の全14集落を7カ月かけて回り、過疎化が進む七山においても住民の方々が自分らしく生ききることができるようにそれぞれの分野から講話を行っています。昨年度、私は認知症があっても暮らせる地域の足掛かりとして認知症サポーター養成講座を開き、七山の全住民の2割弱の方が認知症サポーターとなってくれました。本年度はアドバンス・ケア・プランニング(人生会議)の重要性を伝え、自分や家族の生き方について考えてもらうようにしています。保健師は七山地区における健診データの分析や糖尿病予防教育を継続しており、七山地区の平成29年度の特定検診受診率は71・7%まで上昇し、糖尿病に関する医療費も軽減されてきています。

 巡回寺子屋を始めてまだ3年目です。学びは継続してこそ力になります。大変ではありますが故郷のためにも仲間の協力を得ながら続けていきたいと思います。

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