自分や家族が重大な病気にかかると、家族みんなが混乱の渦に巻き込まれます。現在、種々の情報が氾濫しているため、どの治療が一番よいのか、いろんな専門の医師に尋ねたくなるのは当然でしょう。

 話題は転じますが、私はかつて採用のための面接試験を受けに行く途中で、道に迷いました。刻々とすぎる時間、どう行けばたどり着くのか、まったく迷って失望していた時、私の前を突然、目的地行きのバスが通過しました。私はそのバスの後方をついていき、面接試験の時間にどうにか間に合うことができました。面接時は全身汗だくで、これまで人生の中で体験したことのない不安と緊張でいっぱいでした。

 ここで強調したいのは、人が生命に関わる重大な病気にかかった際、誰に相談したらよいのか、分からないとき、バスの運転手の後方について目的地に到達できるような安心、信頼、保証を与えてくれる医師。そんな先生に出会うかどうかということ。「大丈夫です。私についてきてください」と説明してくれる医師が最も理想でしょう。予後(結果)の良し悪しはその時点では分かりません。しかし、信じて疑わずについていくことが大切だと思います。現代医療では、情報氾濫による迷いが生じ、医療機関を転々とされている方をお見かけします。

 面接が終わり、最終バスに乗った私は、先に学生さんが運転手さんに「ありがとうございました」と礼儀正しく、挨拶をした風景を見ました。私の降車する順番が来ました。「お疲れ様でした」と挨拶しました。そうすると、運転手さんは誇らしげに2回咳をされました。大切なのは、感謝の気持ちをしっかり伝えること。それがお互いの信頼関係をさらに確かにします。このような基本的な信頼関係と感謝の気持ちが、情報氾濫のために失われつつあるのかなあと思いました。(九州大学キャンパスライフ・健康支援センター教授・副センター長・統括産業医 佐藤武)

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