最高裁の弁論について「有明海の再生のために、期待したい思いはある」と述べた漁業者の平方宣清さん=藤津郡太良町

 国営諫早湾干拓事業(長崎県)を巡る訴訟で、開門命令を事実上無効にする昨年7月の二審福岡高裁の判断が見直される可能性が出てきた22日、訴訟当事者の漁業者は「潮目がいい方向に変わればいいが」と期待を込め、漁場環境を回復する手段として改めて開門を求めた。突然の展開に、勝訴していた農水省側は口が重くなった。

 

 最高裁が弁論を設定し、開門命令を事実上無効とした高裁判決が見直される可能性が浮上した22日、佐賀県内の訴訟当事者の漁業者は「今度こそ司法の役目を果たしてほしい」と語気を強めた。漁業権の消滅を理由に漁業者側の主張を退けた判決を痛烈に批判し、「開門して漁業被害の原因を究明すべき」と訴えた。

 開門を命じた確定判決の原告漁業者、平方宣清さん(66)=藤津郡太良町=は「急な知らせだったが、それだけ高裁判決がでたらめだったということ」と険しい表情を見せた。確定判決の国の不履行で裁判が長期化し、有明海や漁業を取り巻く環境は深刻さを増す。「一日も早い有明海の再生のために、期待したい思いはある」と言葉をつないだ。

 漁業者側が逆転敗訴した高裁判決では、漁業権が10年で消滅するため、開門を求める権利も消滅していると認定した。開門義務を免れる国の主張を全面的に採用した形で、平方さんは「司法が国の責任逃れを認めてしまうのは許せない」と改めて苦言を呈した。

 同じく原告のノリ漁業者、大鋸武浩さん(49)=太良町大浦=も「漁業権が引き継がれずに消滅するという都合のいい解釈には納得できなかった。最高裁には法の番人としての公正な審議を求めたい」と述べた。

 

「関係者が対応」

長崎県知事

 最高裁の上告審弁論が7月26日に指定されたことについて、長崎県の中村法道知事は「長崎県の考え方を(国などに)伝えており、関係者がしっかり対応すると考えている」と報道陣に述べた。

 

「関心持って見守る」県

 

 訴訟の当事者ではないものの、有明海再生事業の継続や調整池の排水対策を国に要望してきた佐賀県は22日、「重大な関心を持って見守りたい」と、急展開を見せる裁判の動向を注視する構えを見せた。

 県の落合裕二県民環境部長は報道陣に「開門調査を含む有明海の環境変化についての原因究明が必要という思いは変わらない。意見交換をしながら、しっかり漁協に寄り添って対応する」と話した。

 県有明海漁協の徳永重昭組合長はこの日、翌日の自民党の有明海・八代海再生PTに合わせて上京し、有明海再生などに関する要望書を吉川貴盛農相に手渡した。高裁判決が見直される可能性が出てきたことに関して「訴訟の件は私たちは原告でもないのでコメントのしようがない」と述べ、冷静な姿勢を見せた。

 

“勝訴”一転

 

「把握していない」農水省

 

 「諫早開門 二審見直しの可能性」―。一報が流れた22日夕は、佐賀など有明海沿岸4県の漁業団体が、農林水産省で吉川貴盛農相に要望書を手渡すタイミングと重なった。農水省の担当者は「まだ省として把握しておらず、何もコメントできない」と繰り返し、情報収集に追われた。

 午後5時25分に始まった漁業団体と農水相の会談。大臣室の外で会談終了を待っていた職員の中には、記者のスマートフォンに映し出されたネットニュースで一報を知り、画面に見入る姿もあった。

 大臣室から出てきた吉川農相は報道陣の質問に「また後ほど答えさせていただきますので、今日はすみません」とだけ述べ、足を止めることなくエレベーターに乗った。

 

 諫早湾干拓事業 有明海の諫早湾で農地確保と低地の高潮対策を目的とした農林水産省の事業。総事業費約2530億円をかけ、全長約7キロの潮受け堤防で湾を閉め切り、約670ヘクタールの農地と、農業用水を供給する調整池約2600ヘクタールを整備した。

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