平島三夫さん(左)と佳子さん=伊万里市東山代町の日南郷

 伊万里市東山代町の山あいにある日南郷(ひなたごう)で茶を栽培する平島三夫さん(48)は、伊万里農林高を卒業後、上京して農業と関係のない仕事に就いた。「地元に居続けると息が詰まりそうで、とにかく外に出たかった」

 都会暮らしは刺激に満ちて楽しく、茶の収穫で忙しいゴールデンウイークもあまり家に帰らなかった。しかし26歳の時、父が脳出血で急逝した。周囲から「もう帰ってこんね」と言われ、帰郷した後に佳子さん(46)と出会った。

 佳子さんはサラリーマンの家庭で育ち、当時デパートの販売員をしていた。親に婚約を告げた時、「なぜ農家に…」と悲しい顔をされた。苦労は覚悟していたが、実際の農業は想像以上にきつかった。

 三夫さんも就農1年目の出来は散々だった。山あいの夜はしんと静かで、都会の喧噪(けんそう)が恋しくなることもあった。そんなときは、かつてこの土地で歯を食いしばって生きた人々のことを思った。祖父のように他の生産者に教えを請い、一から学んでいった。

 嬉野市を中心に県内で生産加工した茶は主に「うれしの茶」として売られるが、近年は地域独自で販売する動きもある。伊万里市では、市や小売業者が特産化に取り組み、「伊万里」や「日南郷」の名前を前面に出した商品を売っている。

 平島さんも独自販売の割合を増やしている。「生産者の顔を出した方が、厳しい意見を含めて消費者のいろんな声を聞ける」。食生活の変化で茶の消費が低迷する中、生産者には品質を高め、多様なニーズに応えることが求められる。また、佳子さんは数年前から、急須で飲むお茶のおいしさを伝えるため、販売員の経験を生かして店舗やイベント会場で実演販売を行っている。

 三夫さんは昨年度、佐賀県茶共進会の茶園の部で最優秀賞を受賞した。山に戻ってから20年の努力のたまものだが、「まだまだ勉強が足りない」と自らを見つめる。夫婦は時間に余裕ができると、ドライブを兼ねて茶園巡りをする。「いい畑はキラキラしてきれいで、ひと目見て分かる。負けたぁ、と思うんですよね」。そう話す目も輝いていた。

 

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