晩ごはんの後、大人がだんらんしている横で、子どもがうつらうつらし始める。「人明かりで安心して、おねむになったのかしらぁ」。そんなふうに笑いながら、母親が寝床まで抱いていってくれた。幼い頃の思い出を、ノンフィクション作家の中島みちさんが書き留めている◆「人明かり」。暗闇の中で、積もった雪がほのかに辺りを照らす「雪明かり」、満開の夜桜が輝いて見える「花明かり」といった言葉にも似て、闇の中で感じる人の温かな気配をいうのだそうだ。子どもや家族を巡る、胸ふさぐニュースに触れるたび、この言葉を思い出す◆例えば、踏切へと暗い夜道を向かった高校生の男女2人を立ち止まらせる明かりはなかったか。いま悲しみに沈むすべての人が同じ思いを抱えているだろう。JR長崎線の死亡事故で、自殺をほのめかすメモが見つかった◆ちょうど今時分、黄白色の花をつけるホオノキは、育つのに時間がかかるが、その葉も花も見事に大きい。〈若木のように/先を急ぐ若人よ/大自然の中にも朴ホオのように/悠々とした木のあることを知って/じっくりと自己を培い育て/大成していくこともいいことではないか〉。仏教詩人、坂村真民さんの「朴の木の下で」をかみしめる◆人生の答えはすぐに出るものではない。道に迷ったら、人明かりを頼りに歩けばいい。(桑)

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