日中はジャンボタクシーを定期運行する一方、「交通空白地」を解消する試みも=唐津市肥前町内

 87歳の母親が今年1月、自動車運転免許証を返上したという唐津市の男性が、タクシー会社からの請求書を手に複雑な表情を浮かべた。利用料金は2月分が4万4千円、3月は6万円を超えた。

 母親は旧市の農村部に1人で暮らす。術後の痛みが気になって毎日、約4キロ離れた医院に通う。路線バスはあるが、朝夕の通学時を中心に1日数便だけ。朝のバスに乗っても医院は開いておらず、タクシーを使うしかない。「安心には替えられないけど、医療費より交通費が高くついて」と男性。車を手放した後の現実だ。

 高齢者の運転による重大な自動車事故が各地で頻発し、改めて議論を呼ぶ。一昨年、免許更新時の認知機能検査が導入されたものの十分と言えず、地域や時間帯を絞った「限定条件付き免許」、さらには「定年制」まで論じられる。

 自治体では免許の自主返納を促しつつ生活の「足」を確保するため、タクシーなどの利用料金を補助する取り組みが広がっている。

 唐津市は昨年から県バス・タクシー協会の優遇措置分を含めタクシー料金が4割引きとなる支援事業を始めた。ただ年間最大48回で期間は3年間。先の母親も利用しているが「やっぱり車がないと不便。返納しなけりゃよかった」と後悔を口にするという。

 都道府県別の75歳以上返納率(2018年統計)は、最高が東京の8・0%、最低が茨城の3・7%で、2倍以上の差がある。九州各県は佐賀の5・3%をはじめ5%前後。車に代わる移動手段を確保できるかどうか、地域の交通事情が返納率を左右している。

 地方ではバスが代替交通の役割を果たすが、全国のバス路線の8割が赤字といわれ、自治体などの補助金頼みの路線が増え続ける。

 取り巻く状況は厳しく、県内でも昭和自動車が佐賀市の山間部を中心とした路線バスの運行見直しを検討する。運転手の高齢化や人手不足が背景にあるが、「公共」を冠した交通手段の維持は当然、民間事業者だけの問題ではない。

 唐津市肥前町の農漁村部を走る昭和自動車の3路線で4月、ダイヤ改正が行われた。乗客が少ない日中はジャンボタクシーを運行し、便数を減便する一方、路線を延伸して停留所を11カ所新設した。県や唐津市などで策定している地域公共交通再編実施計画に基づき、事業者にはコスト削減、住民にとっては「交通空白地」の解消という両義のメリットを見据える。

 高度経済成長以降、日本社会は新幹線や高速道路など「大きい交通」の充実を最優先してきたが、人口縮減社会に向かう今、地域の交通環境はどうあるべきか。「交通難民」「買い物難民」を生まないためには何が必要か。NPOによる移送サービスや移動販売を含め、生活に密着した「小さい交通」に目を向ける時だ。(吉木正彦)

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