4月に入社した新人や担当分野が代わった記者たちは、新しい環境に慣れてくる頃。少しずつ顔見知りも増え、いよいよ本格始動である。

 記者の仕事は、人脈づくりが基本の一つ。担当する地域や業界などに溶け込み、いろんな情報をつかめるようにと苦心するが、これがなかなか難しい。どうしても、最初は気負ってしまって空回り。そのうち焦りと不安が膨らみ、落ち込むこともある。

 記者に限らず、誰もが“新参者”の経験はあるだろう。会う人ごとに「初めまして」「よろしくお願いします」を繰り返してきたが、狂言の舞台は「この辺りの者でござる」というせりふで登場人物が自己紹介するところから始まるそうだ。ある広報誌に載っていた野村萬斎さんのインタビュー記事で知った。

 萬斎さんは「狂言には特定のヒーローやヒロインは出てきません。いつの時代のどこにでもいる市井の人々が『いま、このとき、ここにいる者』として登場します」と、能との違いも織り交ぜて分かりやすく解説していた。

 北京やパリでの公演でも、萬斎さんは「この辺りの者でござる」と登場した。どこであっても、昔からそこに住んでいるように始める。「古典芸能といっても、まさに『今』を演じているんです」と述べている。

 新たな環境に、こんな感じで入り込んでいけたら、と思う。肩の力を抜いて「この辺りの者」「ここにいる者」として、出会った人たちと向き合ってみる。しっかり根を張る気持ちさえあれば、受け入れてもらい、何とかやっていけると信じたい。

 最初は緊張もするし、臆することもあるが、次第に慣れてくると、出会いが楽しみになる。人付き合いは決してうまくはなかったが、支局や役所など担当した分野で多くの人と知り合い、仕事の枠を超えて、いろんなことを教えてもらった。

 一つの分野を担当するのは数年で、配置換えでまた次となる。だからといって、出会いをぞんざいにし、「通りすがりの者」であっては相手に見透かされる。かっこいいヒーロー、ヒロインにはなれなくていい。「この辺りの者」として、親しみのある太郎冠者のように溶け込んでいきたいものである。

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