トランプ米政権が貿易協議の不調を理由に、中国からの輸入品2千億ドル(約22兆円)分に課している追加関税率を10%から25%に引き上げる措置を発動した。関税という懲罰的な措置で譲歩を力ずくで引き出す狙いだ。今後残る全ての輸入品にも25%の制裁関税を速やかに課す方針だという。

 トランプ大統領は50年ぶりに低い失業率など米経済が好調であるために、貿易戦争を乗り切れると強気に出たようだ。

 だが世界への悪影響を無視する一方的行動は、短期的国益、自らの政治的な得点稼ぎしか考えていないといえ、超大国の指導者の資質を欠く。

 中国も弱体化する国営企業支援のための不透明な政府補助金や外国企業からの技術の強制移転など、その経済慣行は世界第2の大国にふさわしくない。両国はもっと国際社会に責任を持って交渉に臨んでほしい。

 今回の措置では10日以降に中国を出た輸入品の関税を上げる。船便の米国到着までに数週間かかるため、追加関税のほとんどは実際の適用までに数週間の猶予がある。この間に交渉に進展があるかどうかが注目される。

 今回の追加関税の適用がもたらす負の影響は大きい。

 まず、中国からの輸入品価格が上がるため、米国の消費者を直撃する。中国も対抗措置を表明しており、米国産品も中国では高価格となり、米生産者の不満は高まる。

 米中経済の混乱は、日本や欧州、韓国、東南アジアなど幅広く悪影響が及び、世界経済に暗い影を落とす。これは結局は米経済の足を引っ張る。

 国際通貨基金は米中貿易摩擦が激化し追加関税が拡大した場合、両国間の貿易規模が3~7割減少する可能性があると試算している。関税を嫌って中国外へ生産拠点を移す動きなどが進み、中国の実質国内総生産(GDP)は最大1・5%減り、米国も0・6%減少すると予想され、「不透明感を高め、世界的な金融環境の悪化を招きかねない」と警告した。

 今回の米中の貿易協議では楽観的な見通しが伝えられてきた。米報道によると、最近になって中国が技術の強制移転問題や政府補助金の見直しなどで後退したことに、米側が反発、これまで発動を延期してきた追加関税に踏み切ったという。

 昨年12月のアルゼンチンでの首脳会談で、25%への追加関税引き上げ問題について交渉開始で合意してから5カ月間、米中両国は精力的に交渉したが、それでも合意できなかった。現在の米中関係がいかに難しい局面にあるかを象徴している。

 米国では台頭する中国への危機感が党派を超えて共有されている。貿易赤字や中国の経済慣行を問題視するだけでなく、通信機器大手の華為技術などの排除を同盟国にも求めるなど、中国への対抗意識は強い。長期発展戦略「中国製造2025」が描く技術面での覇権獲得を許さないという決意が感じられる。

 対する中国は米産品を巨額購入し、米国の貿易赤字を減らすことは約束するが、米国が求める構造改革には抵抗している。国家を発展させる目標も当然放棄しない。

 米中は宿命的な対立にあると言えるが、エスカレートは誰も望まない。勝敗がはっきりとつくこともないだろう。一つ一つの課題で理性的な協議を進め一致点を見いだしていく以外に道はない。(共同通信・杉田弘毅)

このエントリーをはてなブックマークに追加