辻泰弘さん

 弁護士をしていて、日本に貧困問題があると思い知らされたのは2006(平成18)年。多重債務者の救済を目指す貸金業法の改正議論が進んでいる時に、「借金問題だけを解決しても生活できない人がいる」とセーフティーネットに対する問題意識が出てきた。それまでは債務整理や取り立てを止めるのに精いっぱいで、背景にある貧困への支援は行き届いていなかった。

 「終身雇用」と呼ばれた日本型雇用システムはグローバル化の影響を受け、企業は国際競争力の名の下に人件費や福利厚生を削るなどしてきた。国による福祉も十分ではなく、そのしわ寄せで負担増に耐えられない家庭が増えたと言える。

 子どもの貧困も生じている。生まれた家庭によって進学の可能性が左右されたり、狭められたりするのは機会の公平性の観点から問題がある。見聞を広める、視野を広く持つべきと言うのは簡単だが、目の前の生活費や返済に追われている人には難しいことだ。奨学金返済などで借金という鎖につながれて社会に出る人が他の人と同じスタートラインに立つのが公平な社会か考えないといけない。

 生活困窮者は複合的な問題を抱え、支援する個人や関係機関・団体は一定レベルでの連携が必要になる。そうしたことから弁護士や司法書士が中心となり、13(平成25)年に民間の任意団体の絆ネットを設立した。支援団体からは困った時の「最後の安全弁」と認識されている。

 憲法が保障する生存権は、国民の理解が鍵を握る。学費、医療費、介護費などいろんな手だてを充実させるためには財源の問題が避けられず、「みんながみんなを支える」ことへのコンセンサス(合意)を形成していく必要がある。

 例えば高齢ドライバーの交通事故を「人ごと」として考える限り議論は進まないが、多くの人が自分の問題として捉えれば免許の返納や代替の交通手段などを考えることにつながる。格差や貧困も同じように自分たちの問題という意識を共有し、批判やバッシングではなく、あるべき制度に向けた議論が求められる。

 生きる権利は、施しやお恵みではなく、憲法上、誰もが平等に保障された権利である。生まれた家庭の経済力や親の数に関係なく、生存する権利を平等に有している。改元で令和の時代になったのを契機に、貧困や格差の問題に関心を持たなかった人も制度の見直しや新たな取り組みへの議論に加わってもらうことを願う。

 

■つじ・やすひろ

 1967年生まれ。95年弁護士登録。佐賀県弁護士会長、日弁連の貧困問題対策本部事務局長などを歴任した。現在は生活総合支援ネットワーク佐賀「絆ネット」事務局長、全国クレサラ・生活再建問題対策協議会常任幹事などを務める。

 

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 令和の時代が始まった。人口減、格差と貧困、働き方改革…。平成からさまざまな課題が積み残されている。これらにどう向き合い、より良い社会を実現させていくか。佐賀県内の各分野の関係者に聞いた。

 =全11回を予定

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