県社会保険労務士会会長の北村鐡夫さん

 労働者人口が減り、企業は働く人を大切にしなければ従業員が確保できず、成り立たない時代となった。しかし、雇用者側の意識は旧態依然としていて、2016(平成28)年の電通社員過労自殺などは人を大切にしなかった例の最たるものだろう。若者らが仕事に求める意義や意識も変わっている。働く人を第一に考える企業、「人ファースト」でないと令和の時代は残っていけなくなる。

 「働かないと食えない」という昭和の時代もあった。私が事務所を開いた平成初めごろ、働く人が仕事に求めるものは「認められたい」「仲間と仲良くしたい」に変わっていた。平成の終わりになると、それは「自己実現のため」になった。だから、叱られると「自分が求めるものと違う」と感じ、辞めていく。

 4月から働き方改革が施行されたが、経営者は「年休を5日取らせなければいけない」とか「残業時間の上限を守らないと罰則がある」とか、負の面から、対応をどうすべきかと汲(きゅう)々(きゅう)としている。

 そんな中、最近あるタイプのパワハラの相談が増えてきた。上司が「早く仕事を済ませて休め」とか「まだ仕事が終わらないのか。早く帰れ」と言うケースだ。仕事の量や職場環境は何も変わっていないのに、「短時間で済ませろ」と一方的に強制されても無理で、これがパワハラになる。

 罰があるから法律を守るのではなく、法律をうまく利用して、人を大切にする企業へと無理のない形で変化していくことが必要だ。子どもの誕生日とか、結婚記念日とか、年休をいつ取りたいかを従業員に聞いてから取得日を決めると、「大切にされた」「いい会社で働けている」と思い、従業員の定着率は上がるだろう。法律を守るという行為も、「人のために」というステップを一つ挟むだけで全く違ったものになる。

 子育てや介護など、人生には100%仕事に打ち込むことができない時期がある。そんな時、いちいち従業員が辞めていったら働く人はいなくなる。認め、寄り添えば、その時期が過ぎれば戻って来て、より一層働いてくれる。

 利益、顧客、社員のうち、これまでは社員の優先順位が一番低かった。でも、優先順位を少しでいいから変えてほしい。社員を大切にし、社員が喜びや誇りを持って働く所には、顧客が集まり、利益が生まれる。令和の始まりに強く訴えたい。

 

 ■きたむら・てつお 県社会保険労務士会会長。「きたむら事務所」(佐賀市)代表社員。建設業、流通業、飲食業、行政職などを経て1990年、経営労務監査・許可申請事務所を開業。現在、約300社に経営、人事、労務などをアドバイスする。佐賀市。

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