前日産自動車会長カルロス・ゴーン被告の弁護団と検察の攻防は舞台を法廷に移す。今月下旬には特別背任事件を巡り裁判所が検察側、弁護側と争点や証拠を整理し、審理日程を決める公判前整理手続きが始まる。ただ前会長は起訴された全4事件で否認を貫いており、手続きの長期化により初公判は来年にずれ込むとの観測も出ている。

 前会長の懐刀といわれた幹部2人と司法取引をした東京地検特捜部は、昨年11月19日夕、羽田空港に到着した前会長に同行を求め、逮捕。有価証券報告書に役員報酬を少なく記載したという金融商品取引法の虚偽記載容疑での立件は前例がなく「形式犯」との指摘もあった。特捜部は構わず、同じ容疑で再逮捕した。

 しかし裁判所は勾留延長を認めなかった。これが異例ずくめの展開の始まりだった。特捜部が特別背任容疑で3回目の逮捕に踏み切り、余罪捜査を続けていた今年3月に保釈を決定。保釈中の別の特別背任容疑による4回目の逮捕を巡っては検察が請求した10日間の勾留延長を8日しか認めず、先月25日には再び保釈を認める決定をした。

 これまで特捜事件で勾留を当然のように認めてきた裁判所が可否の慎重判断へかじを切ったことが見て取れる。裁判では「人質司法」と呼ばれる長期の身柄拘束や司法取引の在り方なども問われるとみられ、刑事司法を変える一歩となろう。

 役員報酬の虚偽記載を巡る最初の勾留延長請求却下は、昨年11月の逮捕容疑と虚偽記載の期間が異なるだけで構図はほぼ同じとの理由からだった。その翌日、特捜部は私的投資の損失を日産に付け替えたなどとして特別背任容疑で3回目の逮捕に動き、特別背任という「実質犯」で会社の私物化を際立たせた。

 ところが前会長は否認のまま今年3月、108日に及んだ身柄拘束の末に保釈保証金10億円を納め、保釈された。住居の出入り口に監視カメラを設置し録画を裁判所に提出したり、パソコンの使用を制限したりするという弁護団提示の厳しい保釈条件が功を奏した。

 保釈中の4月4日、中東オマーンの販売代理店に支出した資金を私的に流用したとして特別背任容疑で4回目の逮捕があり、勾留延長の短縮を挟んで、25日の再保釈に至る。この時、裁判所は前会長に証拠隠滅の恐れがあるという判断を示したものの、長期勾留で公判準備ができないなどの不利益をより重くみた。

 刑事訴訟法は逃亡や証拠隠滅の恐れのほか、健康上や社会生活上、防御上の不利益なども考慮し保釈を認めることができると定める。これを踏まえ、さらに裁判所の許可を得ずに妻と接触してはならないとの条件を付した上での決定だった。

 裁判所が身柄拘束は例外という姿勢を明確にしたといえる。海外で人質司法や弁護人を立ち会わせない取り調べへの批判が高まったことも背景にあったとみられる。検察から「長期勾留への批判をかわしたいだけ」「特別扱い」との不満が噴き出したが、この流れは他の事件にも波及しよう。

 一方で、裁判所は「司法取引に合意した証人らの証言の信用性を慎重に判断したい」と検察側と弁護側の双方に伝えている。公判では捜査の在り方も検証されることになる。真相解明とともに刑事司法の改革につなげていくことを考えたい。(共同通信・堤秀司)

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