日本国憲法は施行から72年を迎えた。昭和から平成を経て令和の時代に入っても守るべき現憲法の理念を改めて確認するとともに、インターネットなどの技術の進歩が投げ掛ける新たな課題についても議論を深めたい。

 国民主権、基本的人権の尊重、平和主義という現憲法の三つの基本原理を堅持することには今でも異論はないだろう。ただ、令和という時代の区切りを、憲法の現状を問い直す機会とする意義はあろう。掲げる理念の実現には、不断の努力が求められるからだ。

 留意したいのは、堅持すべき理念と条文、改憲しなければ対応できない課題、法律で対処できる問題―を切り分け、国会法など、いわゆる憲法付属法も含めて検討することだ。精緻な論理に基づき、後世の検証に耐えうる憲法議論を進めたい。

 現下の改憲論議の対象は平和主義の柱である9条だ。安倍晋三首相は2020年までの改正9条の施行を目指すと表明。自民党は首相の意向に沿って、戦争放棄を定めた9条を維持したまま「自衛のための実力組織」としての自衛隊の保持を明記する改正案をまとめた。

 夏の参院選で3分の2以上の改憲勢力を維持し、早期に国会発議し、国民投票に持ち込む日程を描いているのかもしれない。だが国会での議論は深まっていない。

 安倍首相は9条明記案でも「自衛隊の任務や権限に変更は生じない」と説明する。しかし、自衛隊の活動はさらに拡大するのではないか。

 自民党の中にも、戦力の不保持を定めた9条2項を削除すべきだとの意見がある。一方、立憲民主党などには、自衛隊の活動範囲を明確に規定し、制約する方向での改憲を主張する議員もいる。

 戦後生まれが総人口の8割を超え、第2次大戦の悲惨な記憶が薄れているという現実はある。だが平和主義は多くの国民が願う理念だろう。そのための安全保障政策の基盤となる憲法はどうあるべきかという根幹の議論が不可欠だ。

 自民党は9条のほか緊急事態条項の新設など4項目の改正条文案をまとめた。だが、議論を急ぐべきなのは国民主権に立脚する統治機構の在り方ではないか。課題は多い。

 公文書改ざんなどが明らかになる中で国会は国民を代表して行政を監視する機能を果たしているか。首相への権力集中や、議論が尽くされない国会は国民主権の形骸化の表れではないか。4年の任期を全うせずに繰り返される衆院解散・総選挙のために、政治が中長期的な課題に取り組めなくなっている。首相の解散権の制約は重要な論点だ。

 ネットの発達は憲法施行時には想定されなかった課題を突き付けている。9条に関しては、目に見えないサイバー攻撃に対処する際の「自衛権」の解釈などの論点を整理しておく必要があろう。

 ネットと人工知能(AI)によって個人情報が収集、解析され、人々が「分類」される時代が始まっている。人権を侵害する新たな差別が生じていないか。米国で起きたネットを通じた選挙介入は国民主権を危機にさらすものだ。こうした事態に現憲法でどう対処できるのか。議論が必要だ。

 天皇陛下は価値観の多様化とグローバル化がさらに進む社会で、1条が定める「国と国民統合の象徴」となる。令和時代の天皇制と憲法の在り方も考えたい。(共同通信・川上高志)

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