天皇陛下が詠まれた歌を刻んだ石碑を見るシチメンソウを育てる会の会員=佐賀市の東与賀海岸

いけすから養殖のヒラスを水揚げする坂口清二さん=唐津市肥前町

 「広大な干潟が広がり、国内最大のノリ養殖漁場」「好漁場として海の幸に恵まれたところ」。2006(平成18)年10月、佐賀県で開催された「全国豊かな海づくり大会」に出席された天皇陛下は有明海と玄界灘をたたえられた。佐賀の二つの海の今後を託された漁業者や市民らは、漁獲の低迷や温暖化など厳しい状況の中でも営みを守り続けてきた。両陛下のお言葉をかみしめながら、次代の令和に引き継ぐ決意を新たにしている。

 

 大会の歓迎行事で、唐津市肥前町で養殖業を営む坂口清二さん(46)、喜久美さん(47)夫妻は皇后の美智子さまから熱心に養殖について尋ねられ、「これからも頑張ってください」と言葉を掛けられた。玄界灘は漁獲量の減少が続き、後継者不足も深刻化している。清二さんは「今後に不安もあるけど、気を引き締めてしっかりやる」と前を向く。

 佐賀市東与賀町のノリ漁業者の山田朋広さん(53)、美加子さん(45)夫妻は、天皇、皇后両陛下に有明海やノリの魅力を直接伝えた。ノリ漁も担い手の約半数が60歳以上になるなど高齢化が進む。朋広さんは、収穫時期は休日なしで睡眠時間も削って作業を続ける。「おいしいのりを作り、食を支えているという思いがあるから努力できる」と力を込める。

 天皇陛下は、皇太子時代からハゼの分類の研究を重ねられる。大会で両陛下の案内を務めた当時県玄海水産振興センター所長の村山孝行さん(66)は「質問が鋭く、水産関係にも精通しているのが伝わった」と振り返る。懇談では漁業を取り巻く厳しい状況についても耳を傾けられ、「多くの海をご覧になって現状を理解し、将来を心配されていたのだろう」と推し量る。

 佐賀市の東与賀会場では、ムツゴロウを捕る伝統漁法「むつかけ」が干潟で披露された。美智子さまはむつかけ名人の岡本忠好さん(70)=鹿島市=に「伝統を守ってください」と声を掛けられた。岡本さんはその思いに応えようと、一般の人向けのむつかけ体験を地元で続ける。「多くの人が海と触れ合い、大事にする気持ちが育まれれば」と期待を寄せる。

 大会当時、東与賀町長だった石丸義弘さん(75)は天皇陛下から「シチメンソウはどうですか」と問い掛けられた。東与賀海岸の塩生植物のシチメンソウは昭和天皇の視察をきっかけに保全が進み、干潟は国際的に重要な湿地を保全するラムサール条約にも登録された。石丸さんは「天皇陛下のご訪問を通じてシチメンソウや有明海の環境を守る思いの継承につながっている」と話す。

 大会では「夢のある輝く海を次の世代に引き継いでいく」との決意を出席者が誓い合った。大会の頃からノリ漁の道を歩み始めた佐賀市諸富町の御厨正幸さん(37)は「いいノリを突き詰めていくと仕事は楽しくなる。勉強熱心な若手は多く、ブランドを守る気持ちや漁業者としてのプライドも育っている」。令和の時代へ希望も見えている。

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