ワシントンで行われた日米首脳会談で、トランプ大統領は安倍晋三首相に農産物の関税撤廃、引き下げを要求し、貿易交渉の早期合意に意欲を示す一方、北朝鮮問題では非核化の実現に向けて日米の連携を確認した。貿易交渉は厳しい展開が予想されるが、日本は自由貿易の原則を貫き、安易な譲歩は避けるべきだ。

 トランプ氏は今月から始まった日米貿易交渉について、牛肉などの対日輸出を念頭に「農産物の関税をなくしたい」と強い不満を表明するとともに、5月にも貿易協定を結ぶ可能性に言及した。

 トランプ氏が貿易交渉の決着に前のめりの姿勢を見せたのは、来年の大統領選を前に、具体的な成果を得たいためだ。特に農産物の関税にこだわるのは、日本が環太平洋連携協定(TPP)と日欧経済連携協定(EPA)を発効させ、両協定の参加国の関税が引き下げられた結果、米国産農産物の対日輸出が減少しているからだ。

 農産物の関税に関しては、トランプ氏から日本が限度として設定しているTPPの水準を超える要求はなく、意図的な通貨安誘導を阻止する「為替条項」や日本車の輸入数量規制についても要求はなかった。しかし、米側の状況を見れば、今後の貿易交渉でこれらを持ち出してくる可能性は低くないとみるべきだ。

 6月に大阪で開催される20カ国・地域(G20)首脳会合までに、さらに2回の日米首脳会談が予定されている。トランプ氏はこの2回で貿易交渉の決着を図りたい意向とみられるが、日本は合意を急いではならない。

 農産物など物品関税については、これまで通りTPPの水準を防衛ラインとして交渉する。日本車の輸入数量規制は世界貿易機関(WTO)ルールに違反する規制であり、要求されたらルールを盾に退ければよい。自由貿易と多国間主義の立場を堅持し、米国に保護主義からの脱却を忍耐強く説いていくべきだ。

 警戒を要するのは為替条項だ。仮に為替条項が貿易協定に盛り込まれれば、日本は景気低迷時にも、円安につながるとして金融緩和ができなくなる恐れがある。米側の圧力がいかに強くても、貿易交渉の枠内で為替問題を協議することを受け入れてはならない。

 北朝鮮情勢では、金正恩朝鮮労働党委員長とプーチン・ロシア大統領との会談など直近の動向を踏まえて意見交換し、北朝鮮制裁を維持するとともに、日米や日米韓の緊密な連携を確認した。

 ただ、金委員長は物別れに終わった2月の2回目の米朝首脳会談を巡り「朝鮮半島情勢は原点に戻りかねない危険な状況だ」とけん制している。中国とロシアを後ろ盾に交渉に臨む構えだ。

 首相は「プーチン大統領とも朝鮮半島の非核化が共通の目標だと確認している」と指摘したが、各国の思惑は必ずしも一致しない。本筋である米朝協議をどうやって再び軌道に乗せていくのか。模索が続きそうだ。

 日本人拉致問題について首相は2回目の米朝会談でもトランプ氏が議題として取り上げたことに謝意を伝達。「次は私自身が金委員長と向き合い、解決する」と強調した。ただ昨年の最初の米朝会談後から首相は「日本が直接、北朝鮮と向き合う」と表明してきたが展望は開けていない。日朝協議の糸口を探るさらなる努力が求められる。(共同通信・柳沼勇弥、川上高志)

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