佐賀県ゆかりのスポーツ選手らが県内を拠点に競技に打ち込めるようにする県の就労あっせん事業。その初の成立ケースとして、陸上とライフル射撃の選手2人がこの春、鳥栖市の医療機関に就職した。スポーツ人材の流出県になっている佐賀の現状を変える一手として期待するとともに、一定の成果が出るまでじっくりと腰を据えた取り組みとなってほしい。スポーツ文化を県民が共有し、応援することも大きな後押しになる。

 取り組みの正式名称は「SSPアスリートジョブサポ事業」。トップアスリートの発掘・育成やスポーツ文化の裾野の拡大を目指し、県が昨年度から取り組む「SAGAスポーツピラミッド(SSP)構想」の一環だ。

 優秀な選手、指導者を県内に定着させるため、採用に前向きな企業と選手たちをマッチングする取り組みが中核となる。あっせん成立後は、県スポーツ協会(県体育協会から改称)に設ける6億円分の基金を活用し、アスリートの受け入れ企業に支援金を交付する。県SSP推進グループは「選手は佐賀で安心して競技に打ち込み、ゆくゆくは指導者となって次世代選手の育成に携わる。そんな選手育成の好循環を描いている」と事業の意義を強調する。

 背景にあるのは、アスリートの県外流出に対する危機感だ。県内には全国レベルで戦う実業団チームを持つ企業が少ない。佐賀に拠点を置いて活動したくてもできない現実があり、指導者を求めて県外で就労したり、県外の企業からサポートを受けているアスリートは相当数いる。

 また、大学やスポーツに力を注ぐ私立高校の絶対数が他県に比べて少ないことも流出の要因の一つ。全国トップの力を持つ小中学生の多くが、「もっとうまくなりたい」「強豪チームでプレーしたい」と他県への進学を決断している。佐賀は、スポーツ人材が流出するマイナス要因を多く抱えているとも言える。

 アスリートの「受け皿」がない現状に対して、県や各競技団体は危機感を強めている。県は「どの年代であれ共通しているのは、優秀な指導者を慕って県外へ出ていくという点。だからこそ、就労支援事業では、選手だけでなく指導者まで育成することを念頭に置いている」と話す。

 スポーツによるまちづくりを目指す自治体は全国で増えているが、その手法はこれまで選手強化費の支援などいわゆる「人材育成」と、施設整備を中心とする「練習環境の充実」がメインだった。SSP構想は、この二つに加え、長期的な競技力向上に着眼し、指導者育成も柱に据えた。強化費で支援するだけでは短期的な盛り上がりで終わってしまうという考えで、これは大いに理解できる。

 ただ、あっせん事業がスタートしたからといって、一朝一夕に課題が解決できるわけではない。県内企業の理解、協力をいかに得ていくか。2年目を迎えたSSP構想は、「する」「育てる」に加え、「みる」「支える」という視点から、普段スポーツに関心のない人へもアピールを強めていくという。県民にとってスポーツが今以上に身近なものとなり、トップアスリートを育てる機運の醸成につながってほしい。(市原康史)

このエントリーをはてなブックマークに追加