作家の村上龍さんは、2年半前に出した『日本の伝統行事』(講談社)という著書で「有田陶器市」に触れている。〈わたしは子どものころ、家族で、九州・佐賀の著名な陶磁器の街、有田で年に一度行われる「陶器市」に行くのが好きだった〉◆村上さんは有田に隣接する佐世保市出身。多くの人でごった返す陶器市を家族で楽しむ様子が目に浮かぶ。さらに〈陶器市のあとは、必ず近くの嬉野という温泉に疲れを癒しに行った〉と続けている。幼い心に刻まれた旅の思い出だ◆今年で116回を数える恒例の有田陶器市があす29日開幕する。きのう10連休がスタートして、有田の街はすでに買い物客が訪れている。5月5日までの期間中に改元を迎え、新元号「令和」にちなんだ商品も並ぶそうだ◆村上さんは、荒廃していく若い男女を描いた『限りなく透明に近いブルー』で鮮烈デビューした。テーマは近代化を成し遂げた後の「喪失感」。その喪失感を埋めるべく『日本の伝統行事』を執筆したのだろうか。酒や食事、歌や踊りを共有する伝統行事と、それを通したコミュニティーの大切さを説いた◆陶器市もどこかお祭りのような高揚感、風情がある。大人も子どもも、町挙げて取り組む一体感。それが支えとなって長い歴史を刻んできた。後世につなげたい大事な伝統行事である。(丸)

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