腕時計、腕時計…置いた場所をつい忘れて部屋中を一人探し回る。やっと見つけて、思わず「ありがとう」と言ってしまう。84歳になる唐津市の山崎満子さんが「手鏡」に寄せた一文はほほ笑ましい。〈この年になって何かにつけ「ありがとう」と手を合わせる習慣が身について〉。周囲から愛情を注がれる日常が目に浮かぶ◆昨夜、この人の「ありがとう」も心がこもったろう。鹿島市議選で91歳の新人髙松昭三さんが初当選した。「高齢者福祉の充実へ自らが先頭に」と、支えられる側に甘んじる気配はない◆以前、精神科医で作家の故なだいなださんがインターネット上の仮想政党「老人党」を立ち上げ話題になった。老人医療費の値上げや年金切り上げに怒り、「絶望するより投票所へ行こう」と呼び掛けていた。それが今や当事者が名乗りを上げる時代。「なり手不足」で疲弊する地方議会の裏返しかもしれない◆ある高齢者心理の調査によると、アンケートで四つの選択肢があると、70代ぐらいまではどれか一つを選ぼうとするが、90代になると「一つに決められない」と複数に〇をしたり、中間に〇をしたり、枠にとらわれない自由さが際立つ。財政や産業振興など難題の山積する自治体が、これから描く未来図に答えは決して一つではない。「人生の達人」のお手並みに期待したい。(桑)

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